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「すいません、僕のせいで」202cm高橋健太郎が振り返る“あの苦い交代の記憶”…セッター関田誠大への絶大な信頼と“エゴ封印”ブロック
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2023/10/06 17:02
難敵トルコ撃破に貢献した高橋健太郎。決して万全なコンディションではないが、チームために身体を張り続ける
五輪予選が開幕した9月30日のフィンランド戦。
日本が圧倒し、2セットを連取して迎えた第3セット。高橋は小野寺太志に代わってコートへ送り出された。
状況は決して劣勢ではなく、小野寺のプレーが悪かったわけでもない。交代の意図は見えづらかったが、9日間で7試合をこなすハードスケジュールを考えれば、大会序盤に多くの選手を起用するのは間違いではない。実際、高橋は直後に1本相手のレフトからの攻撃をブロックし、Bクイックも決めた。
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中盤までフィンランドにリードを許す展開を招いたが、最後は押し切るだろう――大半がそう考えて見守る中、第3セットの攻防を制したのはフィンランドだった。セット終盤、関田と高橋の速攻のコンビが合わずに得点を決められなかったことが、その後の攻撃がサイドに偏り、ブロック失点が増えることにもつながった。
「プレッシャーでした。ああいうシチュエーションで入るのも、(この大会で)出ること自体も初めてで、チームの流れを止めたくない気持ちもある。正直に言えば、スタートで出る時よりも緊張自体はなかったんです。でもそれがよくなかった。すーっとそのまま入ってしまって、僕のプレーでチームにフラストレーションを与えてしまったんだと思います」
高橋はそう振り返る。だが、試合途中からコートに入ってすぐに活躍できるほどバレーボールは簡単ではない。スパイクが決まらず、フィンランドのリードが広がるたびにうなだれて戻ってくる高橋に、常に声をかけていたのが同じミドルブロッカーの山内晶大だった。
「劣勢で入るのか、リードした状態で入るのか。場面にもよりますけど、劣勢の時のほうが『流れを変える』という役割がはっきりしています。そもそも健太郎は、最初からコートに立って、最後までエネルギーを燃やし続けてリズムをつかむ選手。練習でもBチームに入ることが多かったので関田選手ともトスを合わせる回数は限られていた。あの(フィンランド戦の)状況は難しかったはずです」
「すみません、僕のせいで」
結果的にフルセットの末に勝利はしたことで、安堵する表情を浮かべる選手が多い中、高橋に笑顔はなかった。浮かない顔でクールダウンをする姿を、関田も見ていた。
「すみません、僕のせいで」
「いや、健太郎のせいじゃない。俺が悪いから」
ただ慰めたわけではない。今はチームの絶対的な軸である関田もかつてはセカンドセッターの立場を味わってきた。試合途中に投入された経験が何度もあるからこそ、高橋の心中を気遣った。
「途中から入るのは、誰にとっても難しいですよ。僕自身も、途中から入って簡単な試合なんかないですし、それで流れが変わっちゃったらすごく責任も感じる。彼自身も『やっちゃったな』という顔、表情をしていました。だからそこは、もともと試合に出ている人間たちが助ける。順応させて機能させていけるように、という気持ちでした」