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「藍は『石川祐希になりたい』とは言わなかった」男子バレー“19歳の新星”の急成長に必要だった偉大な先駆者《高橋藍ができるまで#3》
posted2023/10/06 11:04
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Yuki Suenaga
「Incredible!(信じられないほど素晴らしい!)」
現役時代はイタリア代表のスター選手で、現在はフランス代表監督を務めるアンドレア・ジャーニに今年6月、高橋藍の印象を尋ねると、この言葉を連呼した。
ジャーニは昨シーズンまでイタリア・セリエAの強豪・モデナの監督も務めていたが、昨季の開幕戦で、高橋が所属していたパドヴァがモデナから金星を挙げ、攻守に躍動した高橋はその試合のMVPに選ばれた。
だからもしかしたらあまりコメントしたくない選手かもしれないと思いながら尋ねたのだが、ジャーニ監督は満面の笑みになり、饒舌に語った。
「ラン・タカハシは……あ、私は“ラン”と呼んでいるんだけど、そのほうが簡単だから(笑)。ランは、昨シーズンのパドヴァで素晴らしいシーズンを送った。イシカワと同じぐらいのパフォーマンスを見せていた。スパイクはもちろん、守備が素晴らしい。ワオ!と声が出てしまうほど彼は感動的なプレーヤー。とてもバランスがいいし、本当に信じられない。私がとても好きなプレーヤーだ。特に守備に責任を持ってやっていて、昨日の(ネーションズリーグの)試合でも信じられないプレーがあった。ランがブロックフォローをして、イシカワがスパイクを決めた。あのポイントはランの素晴らしいカバーから始まったんだ」
成長を加速させたイタリアでの2年間
高橋が国際舞台にデビューしてから2年。興奮まじりに熱く語るスター監督の姿を目の当たりにして、世界からも注目される存在になっているのだと改めて感じた。
この2年間のイタリアでの経験が高橋の成長を加速させたことは間違いない。
19歳で出場した2021年の東京五輪を終えた時、高橋の中では、五輪の舞台に立つことができた満足感よりも、「もっと自分に経験があれば、日本はメダルに届いたんじゃないか」という悔しさが上回った。
その悔しさが高橋を突き動かした。日本体育大学2年だったその年、世界最高峰のイタリア・セリエAへの挑戦を決めたのだ。当時、決断の理由をこう語っていた。