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「日本のバレー、強いよね!」石川祐希が変えた“王国”の価値観…20年前のイタリアでは想像もできなかった「ナカタやハラダと同じ覚悟がある」
posted2023/10/07 11:03
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Yuki Suenaga
イタリアで最も有名な日本人は誰か。
アニメの巨匠・宮崎駿か、かつて翻訳出版ブームが起きたという三島由紀夫か。人によって意見は分かれるだろう。
二十数年前、筆者がイタリアで暮らし始めた頃、あちこちで聞かれたのが中田英寿の名だった。彼は国民の圧倒的関心事であるサッカーのセリエAで優勝したばかり。また運転免許を取得して大人の世界に入ろうとする若者層には、2輪レースの世界王者だった天才ライダー、原田哲也の名もポピュラーだった。
2023年の今、バレーボール大国でもあるイタリアで「ユウキ・イシカワ」の名は、先人たちのように着実に浸透しているかもしれない。
スター選手たちが集結するセリエA
9年前、19歳だった石川は、世界最高峰であるイタリア1部リーグ「セリエA」に飛び込んだ。以来、所属クラブをステップアップしながら着実に実力を証明し続けてきた。
昨季、所属するパワーバレー・ミラノは惜しくもプレーオフ決勝進出を逃したが、目標にしていた4強入りは果たした。ハイレベルの経験を重ねる石川はチームのトップスコアラーであるだけでなく、強豪が並み居る世界の一流選手たちの向こうを張ってセリエAの主役の一人に躍り出た感がある。
これは実にとんでもないことだ。
今季2023-24シーズンのセリエAには、9月に行われた欧州選手権MVPのポーランド代表ウィルフレド・レオン(ペルージャ)や同大会ベストスコアラーのスロベニア代表ロク・モジチ(ヴェローナ)ら世界のトッププレーヤーたちが参戦する。地元イタリア勢には、アレッサンドロ・ミキエロット(トレンティーノ)ら昨年の世界選手権優勝メンバーにイバン・ザイツェフ(ルーベ)といった超一流ベテラン組もズラリ。石川の同僚には、昨季セリエAで優勝したトレンティーノからリーグMVPのマテイ・カジースキが加わった。
イタリアで週末ごとに行われているのは、世界のプロバレーボーラーたちによる“天下一決定戦”なのだ。
参戦する全12クラブのロースター数を合わせると、セリエAプレーヤーと呼べるのは240人前後。第2次世界大戦の明けた1946年に第1回リーグ戦が始まったセリエAの歴史を考えれば、花形プレーヤーから無名選手まで国内外から集った選手たちの累計数は途方もない数になる。
その中で日本人は、吹けば飛ぶようなあまりに微細な存在だ。