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韓国→ニュージーランド→大分へ…原点は父の「ラグビー英才教育」韓国出身プロップ・具智元が“桜のジャージ”を選んだ「納得のワケ」 

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山川徹

山川徹Toru Yamakawa

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/09/11 06:02

韓国→ニュージーランド→大分へ…原点は父の「ラグビー英才教育」韓国出身プロップ・具智元が“桜のジャージ”を選んだ「納得のワケ」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

韓国出身のプロップ・具智元。日本のスクラムには欠かせない存在として今大会も活躍が光る

 具は、父の教育方針で家族揃って韓国からニュージーランド、日本と住まいを変えた。やがて日本代表に憧れを抱く。

 日本では留学生として日本語を一から学んだが、家族と一緒だった。そこが、これまでの留学生とは異なる点だろう。

 当初「ラグビーをやるなら、いい環境で」と語った具東春の発言について、私は短絡的に捉えていた。いい環境とは、指導体制や練習環境だろうと思っていたのだ。

 しかし第5章で紹介したNTTドコモレッドハリケーンズのリクルーターである呉英吉の言葉に、考えを改めた。

 呉は十代前半から半ばの子どもには、保護者の愛情が絶対に必要だと語っていた。中学から高校時代は人格形成にも大きな影響をあたえる時期だ。長期の留学をさせるなら、親と一緒に暮らせるような仕組みを本気で考えなければならない。

 具の父である具東春は、家族の時間を大切にすべきだと思っていたのではないか。家族が一緒だからこそ、若い息子たちは不安なくラグビーに集中できるはずだ、と。

日韓の架け橋に

「グー、行けー!」

 具がボールを持って突進すると、隣に座っていた男性が立ち上がって絶叫した。

「グーくん!」と女性の悲鳴のような歓声も聞こえる。

 私が具の試合をはじめて生で見たのは、2018年2月22日。秩父宮ラグビー場で行われたサンウルブズ対オーストラリアのブランビーズ戦である。

 3番で先発出場した具は何度かボールを持ち、スクラム以外にも見せ場をつくっていた。前半リードして折り返したサンウルブズだったが、不運なミスもあり、25対32。オーストラリア代表を揃える強豪クラブに対する健闘にファンは温かな拍手を送った。なかでも日本代表となっていた具は、もっともファンの声援を集めた選手の一人だった。

 具にとって、日本代表への憧れが募ったゲームがある。

 2015年W杯の南アフリカ戦だ。

 拓殖大学3年生だった具は「ラグビー史上、最大の番狂わせ」と呼ばれた勝利を知り、驚きや喜びと同時に別の思いがよぎって、緊張した。

「これから日本代表はレベルがもっと上がるはず。自分も早くこのレベルに達する選手にならなければ」

【次ページ】 韓国と日本、どちらかを選ぶ葛藤はなかったか? 

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