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韓国→ニュージーランド→大分へ…原点は父の「ラグビー英才教育」韓国出身プロップ・具智元が“桜のジャージ”を選んだ「納得のワケ」
text by
山川徹Toru Yamakawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/11 06:02
韓国出身のプロップ・具智元。日本のスクラムには欠かせない存在として今大会も活躍が光る
具たち若い海外出身選手にとって、日本代表が憧れの対象になっていたのである。
はじめて日本代表に選出されたのは、その2年後のことだ。
2017年11月18日、フランスのトゥールーズで行われたトンガ戦の前。ジャパンのジャージにはじめて袖を通した具は安心感に満たされていた。やっとここまできた。やっと桜のジャージを着ることができた、と。
韓国と日本、どちらかを選ぶ葛藤はなかったか?
金にぶつけた質問を具にも投げかけた。韓国と日本。どちらかを選ぶ葛藤はなかったか。
「ずっと日本代表に憧れていましたし、お父さんも『日本代表を目指しなさい』と応援してくれていたので迷いはなかったです。ぼくは日本で暮らしはじめて11年目になります。韓国と同じくらいの時間を日本で過ごしました。韓国だけではなく、日本も自分の国という意識があります。とくに日本代表には、トンガやニュージーランド、フィジー……様々な国の選手がいる。それがプラスに働いているチームだと感じていましたから」
そして彼は少しだけ居住まいを正した。
「いまいろいろありますが、韓国人のぼくも日本代表として応援してもらえる。本当にいい環境でラグビーをやらせてもらっている」
いろいろありますが……。それは、日韓の間で噴出した様々な問題を指しているのだろう。
韓国内で日本代表としてW杯を目指す具に対して反発はないのだろうか。
「韓国でラグビーがそれほどメジャーなスポーツではないのも大きいと思いますが、とくにありません。逆に韓国のラグビー仲間はみんな応援してくれています。『お前は日本代表でもあるけど、オレたち韓国の代表でもあるんだ』と。ぼくは日本と韓国の人たちに応援してもらえる。それがとてもありがたい。ぼくがW杯でがんばることで、韓国を好きになる日本人が増えて、日本を好きになる韓国人が増えれば、と思っているんです」
ラグビーを日韓の架け橋に――。日韓に縁を持つラグビー関係者すべての思いである。
それはラグビーだけの問題ではないだろう。隣国との友好関係は、日韓双方の一般的な国民の何よりの願いだ。24歳の1人のアスリートは、W杯日本大会で、2つの国に暮らす人たちの願いをも背負おうとしていたのである。
<「初の海外出身日本代表」編とあわせてお読みください>