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「バスケ後進国」日本はなぜ最終クオーターで何度も大逆転できた? トム・ホーバスHCがかけた“自分たちを信じる”のための「3つの魔法」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byFIBA
posted2023/09/03 11:06
48年ぶりの五輪自力出場を決めた日本代表チーム。トム・ホーバスHCがチームにもたらした信念とは…?
「アジア1位になるという目標に対して、全力を尽くします」
もちろん、全員がそれを口にした。この目標を信じて実行した筆頭はチームの大黒柱である渡邊雄太だろう。彼は大会前に行なわれた最後の練習試合が終わったあとのヒーローインタビューの場で、日本国民に向かって宣言した。
「(国際大会でチームを勝ちに導けなかった自分のような)勝てない選手がいても仕方がない。パリ五輪の出場権をとれなければ、代表を引退します」
渡邊の親友であり、このチームのキャプテンの富樫はこう証言している。
「まだまだ、『彼は代表でやれる選手だ』とみんなが思っている中で、あの発言だったので。でも、(チーム最年少の)河村(勇輝)選手とかはあれでかなり火がついて。『パリ五輪も、その次の五輪も目指したい』という気持ちになったのは間違いないかなと思います」
実際、残り8分強で15点差をつけられてから逆転したベネズエラ戦の直後に、当の渡邊はこう話していた。
「自分たちが本気でそれを思って口に出すことで、そういう言葉に力が宿ると信じているので。口先だけだったらもちろん、そんな事は起こらないです。今日は試合に出ていない人はいますけど、チームの12人全員が信じきれているからこそ、こういうゲーム展開でもみんながあきらめずにやれたのだと思います」
今回の日本代表は、全員が言葉の力を信じていた。
東京五輪で銀メダルを取った女子チームの実績
2つ目の理由は、ホーバスHCに女子日本代表での実績があったからだ。
ホーバスHCは東京五輪で女子の日本代表を率いて2位になり、日本バスケ界に初めての銀メダルをもたらした。女子の世界でも、日本人が体格で世界の強豪相手に劣っていたのは男子と同様だったが、それでも互角にやれることを証明した。馬場はその意義を強調する。
「大黒柱のトムHCが、一切ブレなかったことですね。僕たちがやっているバスケは、彼が日本の女子のバスケで証明してくれたことです。だから、『そのバスケを徹底することができたら僕たちにもチャンスがある』とずっと思えていたので」
そんなホーバスHCが求めるバスケのキーワードは、『スピード』、『運動量』、『選手ごとの役割の徹底』だ。
『スピード』については、世界的にも背の低い167cmのキャプテン富樫勇樹と、172cmの河村勇輝の2人を司令塔のポイントガード(PG)で起用するという英断からも明らかだった。高さが有利とされるバスケの世界で、彼は日本人のスピードを武器にすえた。
『運動量』については、指揮官は常々こう話していた。
「世界でもっとも走るチームを目指しマス!」