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「バスケ後進国」日本はなぜ最終クオーターで何度も大逆転できた? トム・ホーバスHCがかけた“自分たちを信じる”のための「3つの魔法」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byFIBA
posted2023/09/03 11:06
48年ぶりの五輪自力出場を決めた日本代表チーム。トム・ホーバスHCがチームにもたらした信念とは…?
2試合目のフィンランド戦で初勝利を挙げ、世界ランキング3位のオーストラリア戦を残すだけとなったときのことをキャプテンの富樫がこう証言する。
「2戦目に勝った試合の帰りかな、(ホーバスHCと)2人で一緒になった時間があったんですよ。HCは僕の目を見て、まっすぐ、『明後日の試合で勝ったら、次のラウンドに行けるぞ!』と。『オーストラリア相手にどこまでやれるんだ?』と(いうのが世間の空気だったと)思うんですけど、トムさんは違って……」
今回はパリ五輪の切符をつかむことが目標ではあったが、はたから見れば負けても仕方がないと思われていたオーストラリアが相手でも勝てると誰よりも信じていたのがホーバスHCだった。ホーバスの真剣なまなざしは、自分たちの可能性を選手たちに心から信じさせるものだった。
だからこそ、オーストラリア戦に敗れて選手が下を向きそうになっていた直後のロッカールームでHCの話が終わったあと、富樫はチームメイトにこう訴えかけた。
「ここにいるメンバーでオリンピックは、雄太と俺と……数人しか(経験)していないけど、あの場所っていうのは本当に特別で。ここまで来ているんだから、もう一回切らさずに、オリンピックの切符をつかんで、この大会を終わろう!」
富樫はどんなときでも最後まで話している相手の目を見続ける。ホーバスHCが就任してからキャプテンを任され、もっとも変わった選手の一人だが、彼はこう話す。
「トムさんはチームを鼓舞するためにいつも強気な発言をしてくれます。トムさんが心からそう思って発言してくれていることが選手にしっかり伝わっているんです」
結実したホーバスHCの信念
4年前のW杯で32カ国中31位だった日本が、わずか12カ国しか出場できない五輪の出場権を勝ち取れた理由はただ1つ。
選手たちが自分たちのことを信じられたことにある。
そして、それをうながしたのは「自分を信じてください」と言い続け「BELIEVE」という言葉を合言葉のように使い続けたホーバスHCの信念だった。
◆◆◆
カーボベルデ戦の後のこと。ロッカールームでのミーティングを終えた日本代表は、誰もいなくなった体育館に再び戻ってきた。みんなで記念撮影をするためだ。そして、馬場が音頭をとり、こんな言葉とともに、日本代表は写真に納まった。それはまるで、漫画『SLAM DUNK』で描かれた、湘北高校が山王工業を倒したあとのワンシーンのようだった。
「レッツゴー! パリ!!」
大会前には無謀な挑戦だといわれていた選手たちが、五輪の切符をつかみとり、周囲を巻き込んで笑顔で写真に納まる。
彼らは「信じる力」を武器に、漫画のようなストーリーを実現させたのだ。