マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
夏の甲子園→秋の大学野球開幕まで…学生野球“谷間の季節”にスカウトたちがコッソリしている“あること”「リストから外す決め手になることもあるんです」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/31 17:02
甲子園という大舞台が終わったあとの隙間の季節こそ、スカウトたちの腕のみせどころ(写真はイメージ)
スカウトにとっても、プロを目指す選手本人にとっても、最後の夏を終えた「秋」は大切な季節になる。
「もうだいぶ前……10年以上も前になりますが、ちょっと気になっていたピッチャーがいて。予選で見ようと思っていた1つ前の試合で負けて、結局、見られなかった。体もまだ細いし、『まあいいか』と思っていたら、ドラフトである球団が結構上のほうで指名したから驚いた。
ドラフトの後で近くまで行った時に寄って練習見て、『アッ!』って声が出ました。夏から2カ月ぐらいで、体格も球威も別人みたいになっていたんです。あれは勉強になりました。ほんと高校生のちょっと先なんて、もうわからない」
大目標が消えた後だからこそ…見えてくる「本当の姿」
そばで話を聞いていた若手のスカウトも、自身の体験談としてこんな話を披露してくれた。
「3年の秋って、楽しいじゃないですか。練習も自分の都合で出たり出なかったり、遊んでいても誰にもなんにも言われない。その頃、僕のこと見に来てくれたスカウトの方に言われたんです。『ドラフトで指名されてもそれがイコール、プロで通用するってことじゃない。将来、プロで通用する可能性があるっていうだけのこと。この秋に、もう1ランクも2ランクも実力を上げておかないと、1月の(新人)合同自主トレの初日に、コンプレックスの塊になってしまうよ』って、きびしく話してくれて。
そこから心をひき締めて練習したおかげで、なんとかギリギリついていけるかな……って。ほんとにその通りでした。あの時にあの言葉をもらわなかったら、今ごろスカウトの仕事なんかさせてもらってないですね、きっと。だから今、同じことを高校生たちに言っています、僕」
プロを目指す高校球児たちの「秋」。
「部」から解き放たれた軽やかさに浮かれて過ごすのもよし。一方で、この先を見定めてさらにレベルアップした世界に身を投じる自らを意識しながら、己を律して過ごすのもよし。まさに『アリとキリギリス』の世界だ。
同様にスカウトたちにとっても、コツコツと「推す根拠」と「消す理由」を集めて過ごす秋になる。
まだだ、まだだと思っていたが、気がついてみると、ドラフトまで50日ちょっと。逆に50日さかのぼってみれば、7月の甲子園予選が始まったころだ。ならばもう、アッという間じゃないか。
さあ、今年もこれから、きっと忙しくなる。