甲子園の風BACK NUMBER
“仙台育英スクイズ→セーフ判定前後の動揺”を悔やむ神村学園「自分を見失った」「切り替えの声掛けが…」研究されても強い“王者の揺さぶり”
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/21 20:00
神村学園の粘りを振り切り、仙台育英は2年連続で決勝の舞台にたどり着いた
「仙台育英の攻撃に自分を見失ってしまいました」
映像だと捕手のタッチが先に見えるものの、本塁セーフ。この1点が神村学園から冷静さを奪った。すでに、この時点で仙台育英には4つの盗塁を決められていた。盗塁、バント、エンドラン。豊富な引き出しで攻撃してくる相手に、投手は打者に集中するのは難しい。黒木は5番・尾形樹人選手に安打を許して一、三塁とされると、ワイルドピッチで失点。さらに、7番・鈴木拓斗選手に2ランを浴びた。
神村学園の小田監督はこう悔やんでいる。
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「セーフティスクイズの後に選手たちが気持ちを切り替える声掛けをできていれば、結果は違っていたかもしれません」
須江監督が「運良く」と表現した場面とは
神村学園の虚を突き、観客を驚かせた4番打者のセーフティスクイズ。仙台育英の須江監督は一切の躊躇なく、勝ち越し点を取るイメージを描いていた。
「迷わずセーフティスクイズを選びました。先制されましたが、運良く2点目、3点目を取られなかったので。三塁走者の山田も良い走塁でした」
須江監督が「運良く」と表現したのは、2回表の守備だ。1点を先制されて、なおも1死二、三塁とピンチが続く。この場面を、仙台育英の高橋煌稀投手が連続三振で切り抜けた。いずれも高めの直球で、見逃せばボールと判定されそうなつり球だった。神村学園の小田監督が回想する。
「先制した後に2点目を取れるかどうか、2-0にできるかどうかで勝敗が分かれました。スクイズで点を取りにいくなど、積極的に動けば良かったと反省しています」
両チームの指揮官が勝負の分かれ目に挙げた2回表の攻防。最少失点で食い止めた仙台育英は直後の裏の攻撃で追いつき、続く3回に小技と大技を組み合わせて試合の主導権を握った。
「1球で決める」バントを徹底して
仙台育英がスクイズで決勝点を奪ったのは、この夏の甲子園で2度目となる。“事実上の決勝戦”とも言われた履正社との3回戦のこと。8回に無死二塁のチャンスから、4番・斎藤が送りバントで走者を三塁に進めて、続く5番・尾形がスクイズを決めている。
尾形は試合後、「スクイズのサインが出ると思っていました」と話し、須江監督は「尾形なら決めてくれると思っていました」と思いは共有されていた。