酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
大谷翔平とダルビッシュが異口同音に「合っているかどうかの確認です」“超一流メジャーのデータ活用術”をWBC侍スタッフ星川太輔が見た
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2023/06/22 11:02
第5回WBCで最も注目を浴びた大谷翔平とダルビッシュ有。彼ら一流メジャーリーガーはどうデータを活用していたのか
もう1つは、2人の投手は“自分の感覚だけを信用しているわけではない”ということですね。つまりファクトに基づいて自分のパフォーマンスを確認することを習慣にしている。だからこそ2人とも、1球1球タブレットを見て確認していました。ファクトに基づいて確認する習慣は、文化の違いも含めてMLBならではなんだろうなと思いました〉
「仮説」「ファクトチェック」の大切さ
これはまだまだ「感覚で投げる」ことが多い日本の投手とMLBの投手の決定的な差異かもしれない。
〈「仮説」が作れなかったり、作ることができても確認が十分にできない、ファクトチェックがしっかりできていない選手は多いかもしれません。この2つは当たり前のことなんですが、実際なかなかできないんですね。
ダルビッシュ投手と大谷投手の考え方は高校生、中学生でも役に立つし、野球だけでなく、社会生活を営むうえでも大事なんじゃないかと思います。
ただし仮説を立てて確認はしながらも、データに操られないようにしてほしい。あくまでやりたいことができているかどうかの確認で、その検証にデータを使ってもらいたい。もちろんデータから学ぶことはたくさんあるんですが、そこに全て正解があるとは思ってほしくないです。
たとえば“スライダーの変化量が普通だから、もっとキレをよくしよう”と思うのはいいことです。大事なのはそれ以前の前提として、何で自分のスライダーが打たれているか、ということをもっと深掘りしなければならない。たとえば左投手で左打者をスライダーで打ち取れないというケース。そういう課題を持った投手の多くは、その前にまっすぐでファウルが取れていないんです。スライダーの変化量云々の前に、そういうことも含めて考えなければいけない。
ことトラッキングに関して言えば、データは感覚をより研ぎ澄ませるためのものなんだな、というのがよくわかる。自分の感覚とデータが絡み合って彼らのパフォーマンスが上がってくるんですね。
ダルビッシュ投手や大谷投手は、練習だけでなく試合前の投球練習でもデータを見ています。感覚と違う数字が出たら、どこが違うんだろうと考えて感覚を塗り替える。普段から数字を見ているから、いつもの投球とこれだけ変化量が違ったら、どうメカニクスを修正すればいいかも判断できる。もしくは今日のコンディションからくる球質に応じて、配球の組み立てを変えるという選択肢もある。彼らはそれができるレベルにあるんだと思います〉
ダルはコンディションがいいとは言えない中で
具体的な話を聞けば聞くほど――ダルビッシュ有や大谷翔平の「データ活用」のレベルの高さは、想像を絶するものだった。