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惨状を生んだのはコストか情熱か? ホンダとヤマハ、MotoGPの日本勢が陥った不振の根深い要因とは 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2023/06/15 11:00

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開幕戦ポルトガルGPでのクアルタラロ(右)とマルケス(左)の走り。今シーズンはこの2人のバトルがなかなか実現しない

 一方、2021年にタイトルを獲得したヤマハのファビオ・クアルタラロは、2022年もチャンピオン争いに加わったが、シーズン後半に失速してドゥカティのフランチェスコ・バニャイアに逆転を許した。今年は第3戦アメリカズGPで3位表彰台に立ったが、それ以外は表彰台争いに加わることも出来ず、6戦を終えて総合8位。チャンピオン争いから大きく後退している。

 ヤマハの課題はエンジンパワー。その改善につとめた結果、確かに最高速は伸びたが、エンジンの回転数を上げたことで、いわゆる「下がない」状態に陥り、コーナーの立ち上がりでタイムロス。従来、ヤマハがライバルメーカーに対してアドバンテージを持っていたハンドリングに影響が出たため、苦戦が続いている。さらに、今年からヤマハのエントリーが1チームになったことも、マシン開発のスピードとレース戦略に大きく影響している。

 対して、エンジンの速さに定評があるドゥカティは4チーム8台体制。これにアプリリアとKTMワークスが加わり、12台の速すぎるライバルたちとの戦いが待ち受ける。ストレートが速ければ勝てるというものではないが、トップスピードが大きな武器になることは必定。加えてドゥカティはハンドリングも良く、そうしたマシンが前にいたら、ヤマハのマシンで抜くのは容易ではない。スリップを使って必死にくらいついていけばフロントタイヤの内圧があがり、ハードブレーキングが連続すればフロントタイヤの消耗も激しくなるばかり。常に全力で、だれよりもがんばっている走りが印象に残るクアルタラロだが、シーズン序盤は心折れる戦いが続いている。

2人の天才が勝てない現実

 クアルタラロは去年のシーズン前半までフロントローの常連だったが、昨シーズン後半戦からドゥカティ、アプリリア軍団のスピードに圧倒されるようになり、今年は3位表彰台に立ったアメリカズGPの7番手がベストグリッド。スペイン、フランス、イタリアと、本来ならクアルタラロが優勝争いしてもおかしくないサーキットで、予選Q2(上位12位まで)に進出できていないという状況となっている。

 ホンダの車体に続き、ついにヤマハも空力などの分野で社外の協力を仰ぐのではないかといわれているが、こうした現象はレース界に限らず、いまの日本の会社が抱えている「コスト最優先」という考え方が影響しているのではないだろうか。そのコスト削減が、「情熱」という部分にも及んでいるのだとしたら、なかなか立ち直るのは難しいような気がする。

 マルク・マルケス、ファビオ・クアルタラロは、だれがみても、いまのMotoGPクラスでは抜きんでた才能の持ち主である。この2人がドゥカティに乗ったら、間違いなく2人のチャンピオン争いになるだろう。天才的なライダーを抱える日本のメーカーの責任は重大である。

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