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甲子園の風BACK NUMBER
「てめー、ふざけるな!」怒声に疑問…静岡の公立進学校監督が語る“野球界の常識は世間の非常識”「イチローさんの指導は丁寧な言葉で」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2023/06/18 11:02
県立富士高校の稲木恵介監督(44歳/右)
当然ながら、イチロー氏と高校球児の技術や知識には大きな差がある。それでもイチロー氏は選手たちの反応を見ながら、高校生にも理解できる言葉を選んでいたという。親しみを抱いてもらえるように冗談を交えたり、個々の選手に合ったアドバイスをしたりする。指導の仕方も一流だった。
怒声、上下関係が競技人口減少の要因では
野球界では怒声罵声、監督と選手の絶対的な上下関係、長時間練習が当たり前のように長年続いてきた。ただ、こうした“文化”が競技人口減少に拍車をかけていると、稲木監督は感じている。野球振興活動で保護者と接すると、野球界の常識は、世間の非常識と気付くことが少なくないという。
「選手はエラーや三振をしたいはずはないのに、少年野球でも結果が出なければ監督に怒鳴られます。子どもにまねてほしくない口調で指導する監督やコーチを見た保護者が、自分の子どもに野球をやらせたくないと思うのは自然です。幼児の野球体験会を始めてから、日頃から言葉遣いには一層気を付けるようになりました」
稲木監督は、「野球をするなら他の時間を犠牲にして全てを野球に費やす」という在り方も変えようとしている。小学生の野球体験会に勉強を組み合わせた富士高版の野球振興は、その1つだが、普段の指導でも野球以外の時間を大事にしている。平日の練習を午後7時まで、土日の練習を半日にしているのは、勉強時間を確保するためだ。
3年生は夏が終わった瞬間、受験生に切り替わります
現在、2年生と3年生を合わせた部員21人のうち、15人が理系に進んでいる。理系は国立大学への進学を前提にしており、野球部も例外ではない。正捕手の渡邉俊介選手も理系で、練習の疲れがあっても毎日の勉強を欠かさない。勉強時間を可視化するアプリを使い「チームメートと共有して、みんながどれくらい勉強しているのか把握しています。相手がいると競争心や危機感が生まれるので相乗効果があると思います」と語る。
稲木監督は「高校生の本業は学業です」と選手を野球漬けにはしない。5月のゴールデンウィークには、高校野球の常識を覆す決定もしている。まとまった休みは長時間練習に充てるのが一般的だが、連休を設けたのだ。5月3日と5日は試合、4日は半日練習。そして、6、7日をオフにした。異例の連休には明確な意図があった。