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「藤井さんの精神面での隙のなさは、羽生さん以上かもしれません」中原誠十六世名人が語る、藤井聡太&羽生善治の“稀有な共通点”と“強調したい違い”
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byMiki Fukano
posted2023/06/02 17:10
「棋界の太陽」中原誠が、取材時の2020年に18歳だった藤井聡太と、18歳だった頃の羽生善治を静かに語る――
恐ろしくなり、表情を見ないことに
昭和の将棋史のゴールデンカードとして長く人気と注目を集めた大山対中原戦は、162局の対戦で中原の107勝55敗。タイトルをかけた番勝負は20回の激突で中原が16勝と、巨人・大山を圧倒したのだった。
「あるとき、終盤戦で大山先生の表情をチラッと見てしまったんですが、物凄い怖い顔で盤を睨んで集中されていました。なんか、本当に恐ろしくなって、それからは相手がどなたであれ、その表情を見ないことに決めました」
はるか年下の挑戦者に対して、はじめこそ闘志が湧かなかったかもしれない大山だが、途中からは追う立場に変わり、そういう意味でのやりにくさは自然に解消されたのではないか、と中原は推測している。「年齢差は大きい」とも言う。
「5歳違いまでは同世代。6歳から15歳差までを先輩、後輩。それ以上違ったら大先輩、大後輩。大後輩という言い方はないかもしれないけど、将棋界ではその考え方がピタッとはまる気がしています。米長さん(邦雄永世棋聖)は4歳上でしたから同世代。谷川さん(浩司九段)は15歳だからギリギリ先輩後輩の関係。そこまでの差はこちらも頑張らなければいけないと考えて必死でやりました。羽生さん(善治九段)ともなると23歳差の大後輩。そこまで差がつくと、耐えられないのも仕方がないのかなと(苦笑)」
「放送中止になればいいのにと(笑)」
羽生善治の名が一躍メジャーになったのが、1988年度のNHK杯トーナメントだ。予選から勝ち上がった18歳の羽生五段が、本戦でも大山康晴、加藤一二三、谷川浩司という名人経験者を連破して決勝に進出。最後に中原も負かして初優勝を飾ったのだ。