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藤井聡太竜王20歳「最年少名人・七冠」へあと1勝…渡辺明名人「名刀の切れ味」「不退転の決意」が分けた明暗〈田丸昇九段が解説〉

posted2023/05/23 17:18

 
藤井聡太竜王20歳「最年少名人・七冠」へあと1勝…渡辺明名人「名刀の切れ味」「不退転の決意」が分けた明暗〈田丸昇九段が解説〉<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

名人戦第4局、藤井聡太竜王は渡辺明名人相手に先手番で勝利し、最年少名人と七冠まであと1勝とした

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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日本将棋連盟

 渡辺明名人(39)に藤井聡太竜王(20=王位・叡王・棋王・王将・棋聖を合わせて六冠)が挑戦している第81期名人戦七番勝負。対戦成績で16勝3敗(名人戦の開幕時点)と勝ち越していた藤井竜王は、第1局と第2局に連勝して好スタートを切った。渡辺名人は第3局で1勝を返したが、終盤の寄せ合いで意外な展開となった。その両者の思惑と第3局、第4局の戦いぶりについて、田丸昇九段が解説する。

渡辺名人が話した「第2局を払拭できるような将棋」

 名人戦第3局は5月13日、14日に大阪府高槻市で行われた。

 過去80期の名人戦で、開幕から2連勝した名人または挑戦者はのべ43人。そのうち37人が七番勝負を制していた。確率的に不利な渡辺名人は、「背水の陣」の心境だったに違いない。

 先手番の渡辺は「角換わり」の将棋を目指した。藤井も武器にしているが、10手目に△4四歩と角筋を止めて角交換を拒否した。渡辺が第1局と第2局で用いた指し方を、藤井が逆に採用したことになるが、自身の対局では前例がなかった。終局後の感想戦では「序盤は手が広いと思っていた」と、多くを語らなかった。

 渡辺は対局前日に「第2局は途中でダメにして、負け方がよくなかった。それを払拭できるような将棋を指したい」と語ったという。第3局は不退転の決意で臨んでいた。

 第3局で渡辺は矢倉、藤井は雁木(がんぎ)に玉を囲った。渡辺は中盤で64分の長考で▲2三歩と打って攻めにいった。しかし、自陣の守りが手薄になり、藤井に反撃される順が生じた。

 藤井は軽妙に攻めて飛車を活用し、△7七角成(14分)と切って△5八飛成と敵陣に侵入した。勢いのある攻めで、一気に寄せ切るかと思われた。しかし、難しい変化が潜んでいた。藤井もそれを懸念したのか、35分と47分の連続長考を余儀なくされて明らかに変調だった。 終局後の感想では、△7七角成は攻め急ぎで、じっくり攻めた方がよかったという。

「刺し違えも辞さず」の闘争心が妙手を呼んだ

 渡辺は絶妙の攻防手順を用意していた。自陣の銀を相手の竜に取らせ、角筋を利かして▲4五桂と竜取りに跳ねた。まさに「肉を切らせて骨を断つ」手段で、藤井の玉に迫っていった。そして、「次の一手」問題に出るような妙手があった。プロ棋士ならすぐに分かる手で、控室の研究でも渡辺の勝ちと結論が出ていた。

 しかし、残り時間が2時間以上あったので、渡辺はなかなか指さなかった。藤井の卓抜した読みを警戒し、自玉が詰まないことを慎重に確認した。藤井の脅威を感じながら、勝利への予感を楽しんでいたのかもしれない。

【次ページ】 第4局で渡辺が再び見せた不退転の決意

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