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藤井聡太竜王20歳「最年少名人・七冠」へあと1勝…渡辺明名人「名刀の切れ味」「不退転の決意」が分けた明暗〈田丸昇九段が解説〉
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2023/05/23 17:18
名人戦第4局、藤井聡太竜王は渡辺明名人相手に先手番で勝利し、最年少名人と七冠まであと1勝とした
渡辺は93分の大長考で▲3三角と打った。第1図はその部分局面。△同桂は▲同竜△3二銀▲4二金以下詰み。角を中段の6六にも利かし、△7八竜▲同玉△6六桂以下の詰み手順を防いでいる。
実戦はまもなく渡辺が勝った。
渡辺の「刺し違えも辞さず」という強い闘争心が、結果的に▲3三角の妙手を呼んだともいえる。
その一方で、AI(人工知能)のように深く正しく読める藤井が、▲3三角を見落としたとは思えない。その3手前の当然の一手に39分考えた時点で分かっていたはずで、軌道修正できずに第1図に至ったのだろう。それにしても渡辺の▲3三角は、名刀の切れ味だった。本来なら藤井が見せるような決め手である。ただ鈍器で殴られるような負け方よりは、かえって後に引かないものだ。
第4局で渡辺が再び見せた不退転の決意
名人戦第4局は5月21日、22日に福岡県飯塚市で行われた。
後手番の渡辺は4手目に△4四歩と角筋を止め、雁木の駒組みを築いた。藤井は左美濃に組んだが玉をあまり囲わず、▲4六銀と中段に進めて▲3五歩と仕掛けた。双方の駒組みが少し違うが、今年1月の王将戦第3局(▲藤井聡太王将-△羽生善治九段)の指し方を採った。
また直後の局面は、2021年5月の叡王戦(▲木村一基九段-△都成竜馬七段)の対局と同形になった。藤井は木村が指した攻め手順を踏襲せず、98分の長考で別の手を指して様子を見た。
渡辺は居玉(玉が元の位置から動いていない形)のまま、△6五桂と角取りに跳ねて攻めた。玉をあまり囲わないのが、現代の相居飛車で定番の指し方だ。藤井の玉もあまり囲われていない。
渡辺は9筋の端攻めをからめて藤井陣を直撃した。第3局に続いて不退転の決意だった。ただ本譜の以後の攻めでは、別の攻め手順がよかったようだ。
「勝ちを見通せるところはなかった」ようだが
藤井は1日目の封じ手で79分も長考し、2日目も受けに徹した手順が続いた。
渡辺の攻めは好調に思えたが、80分と114分の長考を余儀なくされた。攻め味が細く、居玉のために王手飛車の順が懸念されていた。一手も動いていない7一の銀について、ある棋士は「銀が泣いている」と形容した。
渡辺は以後も攻め続けたが、藤井に的確に受けられて苦しくなっていった。