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武藤敬司60歳が明かす引退試合のこと…なぜ内藤哲也だったのか? 全治6週間の大ケガに「延期なんて絶対できないし、這ってでも出なきゃ…」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNOAH
posted2023/05/22 17:01
引退試合の相手に内藤哲也を選んだ武藤敬司。果たしてその真意は…
「肉離れなんて初めてだよ。膝、股関節の無理がたたってそうなったんだなって理解できた。ただ、(興行の)冠が俺の引退になっている以上、延期なんて絶対できないし、這ってでも出なきゃいけない。そりゃあ何とかするしかねえよなって思ったね」
一日中ずっとトレーニング漬け
還暦の肉体には若いころのような早い回復を期待できない。かつ、慣れていないケガの部位において完治まで2週間短縮させるというのは、かなり難儀なミッションであった。
主治医のもと再生医療やヒアルロン酸の注入などを行ないつつ、すぐにリハビリを開始した。急に治るものではないことは百も承知のうえで短縮を可能とするにはプラスアルファが必要だという肌感覚を持った。とはいえ無理をして悪化したら元も子もない。いろいろとアドバイスを受けながらも、しっくりいくものが見つからない。気がつけば引退試合は2週間後に迫っていた。
助け舟を出してくれたのは、家族だった。アメフト経験者で会社員の長男からアスリート御用達のリハビリ施設を紹介され、藁にもすがる思いで通うことにした。
「結果的にはこれが大きかったね。ランニングマシンでは自体重の50%(の負荷)で走るリハビリがあって、こんなに足を回転させられるんだって、俺、ちゃんと走るの何十年ぶりだからスゲエ感動した(笑)。70%、85%と日に日に負荷を上げていくっていうやり方。電気治療を受けたり、高酸素カプセルにも毎回1時間入ったり、いいと思えたものはやったよ。試合に向けた練習もやんなきゃいけないわけだから、一日中ずっとトレーニング漬けだった」
回復を実感できるようになり、コンディションも上がってきた。しかしそれでも痛みは完全には消えなかった。主治医のアドバイスもあって引退試合を行なう前の週に痛み止めの注射を打つことにした。どうしてそうしたかと言えば、効果がどのように出るかをチェックするため。打った翌日は痛みなく動かせたものの、翌々日になるとぶり返してきた。そこで試合前日に痛み止めを打てば良いのだと判断できた。
引退試合当日、自宅で食事を取ってから午後2時過ぎに会場入りした。ドームに入ってからはすべて車いすで移動。余計な疲労を患部に与えないようにした。