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「眼前に猪木が現れた」Sareeeが日本復帰戦で537人の観客に見せつけた“驚愕の投げ合い”…勝者の橋本千紘は「東京ドームで戦いたい」
posted2023/05/22 17:02
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
23分17秒。5月16日に新宿FACEで行われた“太陽神”ことSareee(27歳)の日本復帰戦は「完敗」だったが、橋本千紘とのシングルマッチ30分1本勝負は、試合として秀逸だった。
Sareeeは最終的には橋本のゲーリー・オブライト式の投げに3カウントを奪われたが、こんなに全体を通してアントニオ猪木色を感じた試合はない。決してわざとらしくなく、ただ技を真似るのでもなく、自然の流れの中で眼前に現れてくる猪木がいた。それは「Sareee-IZM」というより、まるで「猪木イズム」だった。
1970年代の“アントニオ猪木の名勝負”のように
オーソドックスな組み手から始まった試合は、クラシックな気配をにじませたが、それにとどまることはなかった。橋本との手四つからのブリッジ。Sareeeが橋本の巨体を首で支えてみせる。かつて猪木がやったように。
インディアン・デスロックからの鎌固め。頭突き。延髄斬り。
Sareeeはリングを巧みに使った。いや、新宿FACEという小さな会場を目いっぱい大きく使った。
「プロレスのリングというのはね。ロープの内側だけじゃあないんですよ」
これは猪木が口にした言葉だ。
場外戦もあった。Sareeeは体重差のある大きな体の橋本に対して、飛び技も有効であることを示した。筆者にとってはコーナーからのプランチャ・スイシーダより、攻撃的な突き刺すようなドロップキックの方がより印象的だった。
Sareeeの裏投げバックドロップは引き抜くようで小気味がいい。落ちる角度は様々だが、いい感じでグレコローマン・レスリングを見ているようだ。
猪木vsカール・ゴッチ。
猪木vsタイガー・ジェット・シン。
猪木vsストロング小林。
猪木vs大木金太郎。
1970年代、新日本プロレスの創成期に繰り広げられた名勝負の瞬間が、2人の女戦士によって2023年に体現されていた。かつてのそんな戦いを知っている人ならば、彼女たちの一挙手一投足にそれぞれのシーンを思い浮かべただろう。実際に2人がどれだけ意識していたのかはわからない。