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「ダルビッシュ選手は少年のように好奇心が…」吉井理人58歳がWBC前から絶賛だった“超メンタル”「自分への期待度が大きかった」
text by
吉井理人Masato Yoshii
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/04/30 11:01
侍ジャパンで今永昇太の練習を見守るダルビッシュ有と吉井理人コーチ。WBC前からすでに吉井氏はダルビッシュの成長を感じ取っていたようだ
いくらじれったくても、まどろっこしくても、我慢し、耐えるべきだ。選手が「わからない」と口にしても、すぐに「こうだ」と断定してはならない。もし言うとしても、せいぜい、「自分だったらこうしたかもしれない」「こんな選択肢もあるかもしれない」というヒントを口にする程度にとどめておかなければならない。
振り返りは三人の投手に対して行ったが、A選手のように高い効果が出なかった選手もいる。おそらくその選手は、内省が足りないのだと思う。自分を深く掘り下げる自己客観視は、上手にできない選手も量をこなせば一定のレベルには到達する。
ダルビッシュは振り返りがしっかりとできた
ただ、振り返りの言葉には浅い、深いの差が出る。浅い人の特徴はこうだ。
「うわべだけの反省になってしまっている」
「曖昧な答えになっている」
「答えが要領を得ないものになっている」
「いつもコーチに言われている言葉でお茶を濁している」
「自分の言葉で語っていないから、明快さに欠ける」
その選手も、何となく気づきかけてはいるのだが、あと一歩も二歩も踏み込まないと結果にはつながらない。そこを乗り越えて結果につなげるには、頭を使って考えなければならない。
これまでコーチとして選手に接してきて、振り返りがしっかりとできる選手はほとんどいなかった。唯一できると思ったのは、ダルビッシュ選手ぐらいである。
彼は、野球に対する興味、好奇心が人並み外れている。あれだけの実力があるのに、少年のようにまだうまくなりたいと思っている。ほかの選手が投げている球種も、どうやって投げているのか興味深々だった。好奇心があるから、向上心も出てくる。彼のすべての行動の源には好奇心があると言い切っていいと思う。
好奇心が向上心を生み、課題を設定させる
なぜ? なぜ? と問い続けていると、課題は自然に出てくるものだ。
問題なのは、ダルビッシュ選手のような好奇心はなく、何も考えずに野球をやってきた選手が、その能力の高さによってずば抜けた結果を出してしまうことだ。プロに入るまではそれで通用するだろうが、プロには途轍もない才能を持った選手たちが大勢いる。才能だけでは通用せず、いずれ壁にぶち当たる。しかし、今まで何も考えてこなかったから、壁にぶち当たっても、どうすれば乗り越えられるのか考えることができない。そうした選手が自分で考えられるようにするためのコーチングが、振り返りなのである。