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将棋PRESSBACK NUMBER
藤井聡太20歳は「簡単に勝っているようだけど、本当は普通じゃない」高見泰地29歳も脱帽の“勝ち筋と人間性”「普段は自然体で…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/23 06:01
叡王戦第1局での藤井聡太竜王
高見 長考に関して言えば……脳内でそれこそ〈堂々巡り〉みたいになることも多いです。基本的に正解は、最初の数分間に直観で思いついた候補手の中にあるんです。ただ自分自身、2時間以上長考したこともありますが――その後の選択肢がいくつかあると悩むところです。一択の方がその後の道を選びやすいのですが、〈この手でもいい、いやこちらでもいいのか〉と2、3通りあると、そこを比較し続けることになります。冒頭でも触れましたが、名人戦第1局はまさにそういった難しい展開だったと言えます。
話は少しズレるかもしれませんが、苦しい局面に立たされた棋士が逆転を狙いたいとき、相手に選択肢を多く与えるのは非常に有効な作戦なんですね。前を走っている人に対して、分岐する道を何個も提示して〈あなたはどっちに行く?〉という状態に持ち込みたいんです。もし〈一本道〉になってしまうと、この一手、この一手と進めていけるぶんだけ、間違いにくい。だからこそ後ろから追いかける側は、一見〈おやっ?〉と思わせるような一手で、体を入れ替えにいく決断を迫られるんです。優位に進めている側としては、その分岐点で正しい道を選べるか。対局中継ではAIによる評価値が可視化されていますが、それが表示されていない実際の対局では、そのようなせめぎ合いが行なわれているんです。
シンプルにゴールまでたどり着けるルートだった
――藤井竜王は最終盤、渡辺名人の反撃をかわして勝利をものにしました。
高見 先ほども話した「1五角」の飛び出しについて、藤井竜王の読みは〈攻めと受けが入れ替わって後手の自分が勝てる〉というものでした。藤井竜王が複雑化することなくシンプルにゴールまでたどり着けるというルートを選んでいるので、非常にうまい勝ち方だと感じました。
――終盤のルート選択では、そういった思考判断が行なわれているんですね。
高見 優勢に立った方としては、絶対わかりやすい道の方がいいですからね。藤井竜王が「1五角」を指す6手前、84手目に「8八歩」と打った手がありますが、と金を作って相手玉を寄せていく手でした。AIでは「7七銀」という幻のような手を推奨していましたが――「8八歩」は狙いも単純明快です。なおかつ相手に取られても一番ダメージが少ない歩を使った攻めです。リスクを低く保ちながら攻めていって、最後に角が飛び出して……と、勝てる筋道を立てたんです。
この勝ち方は、本当は普通じゃないですから
――日常生活にたとえると、スマホのマップやカーナビで目的地ルートを検索する際、渋滞しやすい道や、山道など走るのが大変なルートを除外していくことがあります。藤井竜王はそういったサポートなしで、最適ルートをパッと判断するようなものでしょうかね。