令和の野球探訪BACK NUMBER
なぜ強豪クラブの中学生は健大高崎を選ぶ? “良い環境”だけじゃない高校野球の最新リクルート事情…訴えるのは“誰のもとで野球をやるか”
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/23 17:00
センバツ開会式で、入場行進する健大高崎ナイン
「僕の役割はほとんど全体のマネジメントと選手の見極め。指導も少しはしますが、コーチの言っていることは否定せず信頼しています」
ひと昔前の高校野球や今でも少なからずいる“全権監督”とはまさに対極にある。その背景には青柳監督の経験が大きい。
「サラリーマンを7年やっていましたからね。社長が全部ああだこうだ言っている会社はダメで、部下にどう動いてもらうかが大事。だからコーチにやりがいやプライド、責任を持って指導してもらい“チーム健大”として選手が良くなればいいと思っています」
こうした充実の環境は中学生たちにも魅力的に映っている。前述の佐藤龍月も、秋に4番を務めた兄・志龍(現3年/センバツは腰の怪我のためベンチ外)とともに甲子園に出たいという思いがあるが、事前に環境面の魅力を知っていたことが決めての1つになった。
「兄からは、『ストレッチのメニューがしっかりあるし、トレーナーもいるから投手が育つ環境だと思うよ』と言われました。プロに行くという目標を達成できる環境だと思いました」(佐藤龍)
「施設ならもっとすごい学校がある」
ただ、環境が揃っているからと言って選手が集まるほど、簡単な話ではない。中学生のリクルートを担当する赤堀佳敬コーチはこう語る。
「施設ならもっとすごい学校はありますし、環境が良いからだけで来てもらっても本当の意味での“戦う集団”にはならないと思います」
そんな赤堀コーチが大事にしているのは「思いの共有」だ。当たり前のように思えることだが、それが最も大事なことに変わりはない。もうすぐ30歳と若い赤堀コーチの言葉に熱が帯びる。
「高校野球で変えられないことが2つあります。1つは勝敗、もう1つは“誰のもとで野球をやったか”なんです。魅力と価値のある2年半にして、ここで卒業して良かったと思える時間にしたいというスタッフの思いを、親御さんや中学生の指導者の方たちには伝えています」