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ダルビッシュ36歳はなぜ“後輩と対等でいられる”のか? 唯一の“昭和生まれ”、異端児と呼ばれた過去も…「人生のほうが大事ですから」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/18 17:02
「最後になるかもしれない」という思いを秘めた感謝のマウンド。その意味は何年か後にあらためて証明されるだろう
どんな批判も圧倒的な実力で黙らせてきた右腕がここまで心を開き、穏やかな表情を見せるのは、本人も公言する通り夫人の聖子さんら家族の存在と、メジャーリーグという環境が大きいのだろう。そういえば、ヤクルトの高津臣吾監督が、現役時代にメジャーリーグで得た最も大きな経験について、リリーフに失敗した時、コーチからいつも「たかが野球だ」と声をかけられ、「野球は楽しむものだし、野球選手であることを幸せに思わないといけない、と考えが変わった」と話していたことを思い出す。厳然たる実力主義が併せ持つ自由と、豊かな野球文化が、ダルビッシュの鎧をも脱がせたのだろう。
ここで生まれ育ってそのお陰で今がある
日本ラウンドでの登板は2試合。韓国戦は3回3失点(自責2)、イタリア戦は2回1失点、いずれもホームランも浴びており、決して万全とは言えなかった。実際、WBCの試合と同時にシーズンを見据えた調整をしてきたことについてダルビッシュは「自分としては思っていたよりちょっと難しかったかな。家族もいなかったので、苦しい部分や難しい部分も正直ありました」と明かしている。メジャーリーガーとして犠牲にしたものもある。しかしそれ以上に得たものが大きかったことは、充実感あふれるダルビッシュの表情が示していた。
「自分が生まれ育った国でこうやってプレーを見てもらえることは、アメリカでプレーしているとなかなかないので、すごくありがたかった。ここで生まれ育ってそのお陰で今がある。感謝という意味でも本当に来てよかったなと思っています」
パドレスと今シーズンから新たに結んだ契約は6年。全うした時には42歳になっている。「最後になるかもしれない」という思いを秘めた感謝のマウンド。その意味が数字以上に大きなものであることは、何年か後にあらためて証明されるだろう。ダルビッシュの薫陶を受けた若手投手の多くはいずれ海を渡って夢を叶え、新たなリーダー役として再び、侍ジャパンのユニフォームに袖を通すはずだから。
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