セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ファウルが飛ぶと「オフサイドだろ!」「試合中に選手がラザニア」イタリア人は野球をどう楽しんでる? 現地でプレーした日本人記者の記憶
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2023/03/16 17:01
2003年、筆者がプレーしたセリエB「サン・ジョルジョ」の野球風景。イタリアでもベースボールは素朴ながらも楽しまれているようだ
欧州最大のエトナ火山の麓にある対戦相手の村に片道4時間くらいかけてようやくたどり着いたと思ったら、グラウンドが砂利の浮く土のサッカー用だったのだ。
試合前に力を合わせてゴールマウスを移動してみると、ホームベースから一塁方向への奥行きは50m強しかなく、逆に三塁方向の左翼は100m以上ある。一塁の後方には5m程度の壁があり、その向こうは崖。つまり、平凡なライトフライがホームランだ! と皆で色めき立った。
ただし、そんな甘い話はない。試合前に審判から特別ローカルルールが適用され、右翼フェンス超えはエンタイトル・ツーベース止まりになることが宣告された。しかも試合中にスコールが降ってきて、あまりの雨量に試合が中止するなど散々な目に遭った。
分乗した車の中がピスタチオの殻まみれに
収穫は雨の上がった帰路にあった。一帯は見渡す限りの名物ピスタチオ畑で、辺りを通るうちに路上販売する畑主を見つけた僕たちは香ばしい匂いにたまらず、キロ単位で争うように買い求めた。分乗した車の中がピスタチオの殻まみれになったのもいい思い出だ。
サッカーに比べ野球人気がないのはわかっていた。
しかし、僕らのクラブも手をこまねいていたわけではない。新学期を前にバスケやバレー、体操といった別競技クラブと話をつけ、合同で勧誘イベントを開いた。
快晴の土曜の午後、街の人が集まる海沿いの広場にミニケージとミニバット、カラフルなゴムボールを持ち込んだ。5、6歳の子供らを連れた親子連れに声をかけてはバッティングゲームに誘い楽しく遊ばせたが、後日グラウンドにあらためて来てくれたのは2人だけ。程なくして、同時期に市内各所のサッカースクールへ新規登録した子供が200人もいたことを知った瞬間、僕らは膝から崩れ落ちた。
観客は基本的に野球のルールが分からないので…
ホームゲームでもセリエBの試合を見に来てくれる観客は貴重だ。たとえ家族や親類縁者、たまに来てくれる仲間のガールフレンド、全員合わせてようやく二桁に届こうかという数でも本当にありがたかった。
ただし、基本的に彼らは野球のルールがわからない。ファウルが飛ぶたびに、三塁手サントの従兄弟ミンモはスタンドから叫ぶのだ。
「今のはオフサイドだろ! 審判、何見てやがる!!」
入団2年目を迎えたとき、クラブは消滅の危機を迎えた。