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将棋PRESSBACK NUMBER
「ええええっ!」AI評価値が〈1%-99%〉→〈99%-1%〉渡辺明vs藤井聡太の“シーソー神局”に「解説棋士まで息切れ…」現地取材で震えた話
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by日本将棋連盟
posted2023/03/11 06:00
渡辺明棋王と藤井聡太五冠の棋王戦第3局は、壮絶を極めた
藤井五冠が粘りに粘って形勢逆転し、渡辺玉が「詰んだ」状況となった。だがその状況で、圧倒的な終盤力を持つ藤井五冠が「2六飛」とした一手によって、詰みを逃がした上に藤井玉に詰みが発生したのだった。
「ええええっ!」「ああああーーーー!!」
評価値の数字とグラフが乱高下する事態には――取材控室からさらに奥まった関係者控室からも思わず、うなり声が出てしまうほど。こんな一瞬で〈1%-99%〉と〈99%-1%〉が揺れ動く対局になるとは……。画面上に映し出された藤井五冠が何度も何度もうなだれ、天を仰ぐ。そして渡辺棋王が死に物狂いで思考を巡らす。数十メートル離れた先にもその空気の重さは伝わってきた。
結果、173手で渡辺棋王が勝利。
対局直後、渡辺棋王は「いやあ……だいぶ追い込まれてしまったので、負けになってしまってもという感じになってしまったので」などと苦しそうに言葉を紡ぎ、藤井五冠も「かなり手が広いと思ったので、いい組み合わせが……誤算があったので」、「終盤は何手かずっと苦しいと思っていたんですけど2六飛としたところで、2五歩と打てば。残念ではあるんですけど、負けの局面が続いていたので仕方がないのかなと思います」、「危険な形になってよくなかったかなという気がするので、その辺りの判断でミスが出てしまったのかなと思います」と苦しそうな表情で語り、壮絶な対局を物語っていた。
解説の高見七段も息絶え絶えになるほどの…
なお凄まじい緊張感だったのは――対局に臨んだ2人以外も、である。終局直後、大盤解説会で渡辺棋王と藤井五冠が登壇、挨拶して、解説会が終了する。そこから控室に向かって現地解説の高見泰地七段が歩いてきた。
「いやあ……すごい対局でした……。大盤解説の会場で見ていても、なんといいますか、凄まじいものがありました」
息も絶え絶えな様子は、まるで42.195kmを走りきったマラソンランナーのようだった。大盤解説会の画面には評価値が表示されておらず、高見七段もまた対局者と同じような感覚で読み続けており、疲労感と高揚感を漂わせていた。その高見七段に対局後、話を聞けることになっていた。ただ高見七段の様子を見てクールダウンして翌日の方がいいのではと口にすると……。