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ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
「マコトは全てのプレーに責任を」長谷部誠39歳はW杯後、ドイツで再び輝く…なぜ修羅場で「俯瞰力とリーダーシップ」を発揮できるか
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byDeFodi Images/Getty Images
posted2023/02/22 11:00
バイエルン戦での長谷部誠。39歳にしてブンデスリーガの重要な一戦で起用されることが、彼の価値を示している
「マコトはプレーするときに全ての面で大きな責任を負っている。そのおかげで我々の味方の2列目のプレーに少し余裕が生まれる。マコトはフルボイェよりも5パーセント劣るかもしれないが、他の選手が(長谷部の存在によって)1パーセントでも楽にプレーできるならば、長谷部はその5パーセントを補うに等しい働きをしていることになる」
確かに、今の長谷部のプレーには『俯瞰力』の高さが感じられる。この場合の『俯瞰』とは自己だけに留まらず、ましてや味方だけでもあらず、敵を含めたピッチに立つ22人全ての状況を把握し、そのうえで最適な判断を下せる能力を指す。この状況で自軍が最も優位に立てるプレー、あるいは敵が最も不利を被るアクションは何なのか。その最適解を見出せる力はむしろ、長谷部が30代後半になって備えた新たな武器であると思う。
今の長谷部は監督目線でピッチに立っている
今の長谷部がコーチングライセンス取得に勤しんでいることが、この能力を一層引き上げているのではないか? 端的に言えば、現在の長谷部は監督目線でピッチに立っている。フィジカルの衰えは、その聡明で明晰な頭脳で相殺する。これこそが他者が持ち得ない凄みを纏った彼がドイツ・ブンデスリーガの最前線で戦い続けている所以である。
2月7日に行われたドイツカップ戦のDFBポカール・ラウンド16。アイントラハトの相手はブンデスリーガ2部のSVダルムシュタット。額面上はトップカテゴリーと下部カテゴリーとの対戦だが、このクラブ間の戦いは『ヘッセンダービー』と称され、隣町同士特有の因縁めいた争いが起きる、曰く付きのマッチメイクだった。
『ヘッセンダービー』は過去に8度の対戦歴があり。その舞台は全てブンデスリーガ(1部)で、アイントラハトの5勝3敗という戦績が残っている。この間、両サポーターはお互いの市内で何度も小競り合いを起こしており、その中では負傷者が多数発生する事象もあった。ちなみに直近の対戦は2017年2月5日のブンデスリーガで、このときはホームのアイントラハトが2-0で勝利し、そのうちの1点は長谷部のPKである。
文字通りの修羅場、充満する緊張感
今回はノックアウト方式のカップ戦、舞台はアイントラハトのホームスタジアム、『ドイチェバンク・パルク』だった。このゲームが開催されるのに先立ち、フランクフルト市内には注意喚起のお触れが出ていて、筆者のもとにも日本領事館からこんな案内メールが来た。