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野球善哉BACK NUMBER
暴力消えない高校球界も…東北は“60歳の新監督”でなぜ成功? センバツ出場に導いた“元巨人選手の改革”「楽しかった野球を子ども達に返す」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byGenki Taguchi
posted2023/01/30 11:00
東北をセンバツ出場に導いた元巨人の佐藤洋監督
成功例は若手への移譲。しかし東北は…
高校野球の名門が低迷期を迎える背景には様々な問題があるが、そのひとつが監督の代替わりだ。
これは東北に限った話ではなく全国の名門校に見られ、学校の名前や前任者の存在感が大きければ大きいほど、監督交代に苦しむケースが往往にしてある。
新しく来た監督は自分の色を出しながらチームを強くしようと考えるものの、「伝統とは異なる」とOBや前任者たちが口出しをして崩壊していく。1年間で複数の監督が変わってしまう学校すらあるほどだ。
しかし、近年は仙台育英や浦和学院、智弁和歌山のように、監督交代の影響を受けず、チーム強化に成功した例があったのも事実だ。
そうしたチームには共通点があった。
新たに指揮を執るのが若い指導者だった、という点だ。
東北のライバルに位置する仙台育英は須江航という中学野球の世界で実績のある監督を擁して、昨夏、東北に初の深紅の優勝旗をもたらしたばかりだ。智弁和歌山はあの高嶋仁から元プロ野球選手の中谷仁(就任時38歳)が引き継いで21年夏の甲子園を制覇、浦和学院も甲子園28勝の森士から息子の大(就任時30歳)へ代替わりし、22年センバツでベスト4入りを果たした。
その中で、東北はなぜ60歳の佐藤に決まったのか。
野球教室で痛感「子どもたちが楽しそうじゃない」
先にも書いたように、佐藤は元プロ野球選手としての経験を持つ一方で、様々なレベルの野球を見て、実際に教えてきた。過去の高校野球指導者に比べても稀有なほどの経験がある。
「野球教室を始めた時、みんな楽しそうじゃなかったんです。怒られてばっかりで悩みを抱えていて。親も苦しんでて、何でそんな親子で苦しまなくちゃいけないのって。日本の野球は“早熟”なんですよ。いろんなことが早い。そのせいで子どもたちが無理強いをされる。勝利至上主義という言葉では軽いくらいの問題がある。そこを変えたかった」
昨今、学童から高校野球までチームの在り方が問われるようになったが、佐藤にしてみれば野球教室を始めた20数年前から、その環境はひどいものだったという。