炎の一筆入魂BACK NUMBER
レジェンド黒田博樹がカープのアドバイザーに就任、新井監督の“新しい家族”に“漢気”注入でチーム再建を目指す
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2022/12/19 11:00
2016年9月10日、25年ぶりのセ・リーグ制覇を喜ぶ黒田と新井。「涙の抱擁」としてファンの記憶に刻まれたシーンだ
ドラフト2位の18歳、内田湘大(利根商)は笑顔で言う。
「オーラが優しいというか、いい人オーラがすごかったです。『新しい家族』と言われ、家族という言葉を使われているのはYouTubeで見ていたんですけど、実際に聞くと嬉しいというか、本当にカープを優勝に導きたい気持ちになった」
監督が選手の心をつかみ、アドバイザーが引き締める。現役時代と変わらぬ阿吽の呼吸で、新人選手の船出となる2日間をより濃いものとした。
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両者のバランスは新井監督が就任会見で口にし、秋季キャンプ合流初日には選手にも伝えた「何事においてもバランスを大切にしたい」という言葉に通じる。
選手層や選手起用などのチーム内のバランスだけでなく、取り組む姿勢のメリハリなど選手に求めるものは新井監督の言動からも見て取れる。
たとえば本格的指導となった秋季キャンプでは、若い選手に積極的に声をかけた。特に気にかけていたように見えたのは、1年目の田村俊介や育成選手の前川誠太など、現役時代ともにプレーしていない選手。キャンプ初日の「みんなに期待している」という言葉通りの行動だった。
アドバイザーという立ち位置の効果
新井監督が現役時代から影響を受けてきた人物なだけに、黒田氏のアドバイザー就任は大きな意味を持つ。
肩書がなければ、黒田氏はきっとチームとも新井監督とも一定の距離を置いたに違いない。引退してもなお影響力が強いだけに、思わぬ反響が起こりかねない。一方で「臨時コーチ」や「巡回コーチ」という肩書であれば、それはそれで実現していないだろう。新井監督と同じ“選手ファースト”で責任を持って指導にあたるコーチ陣への配慮もある。肩書が「アドバイザー」ならば、監督や選手がためらうことなく相談でき、何より黒田氏も自分の意見を伝えられるようになる。
「アドバイザー」という距離感はチームにとっても、黒田氏にとっても絶妙なポストといえる。表に立つのではなく、縁の下で監督や首脳陣、選手を支える。就任発表後、黒田氏は二軍を中心とした活動を思い描いていた。
「何かアドバイスを求められたときに、自分がしっかり応えられるような準備だけはしておこうかなと思います。マツダ(一軍の本拠地マツダスタジアム)はやっぱり勝負の場なので、僕がいきなり行くということはないと思いますけど、大野(二軍やリハビリ組がいる練習場)に関しては、これからの選手もたくさんいるだろうし、そっちのイメージが強い」
現役時代の黒田氏とともにプレーし、多くの助言をもらってきた大瀬良大地は、選手会長の立場でも大先輩の球団復帰を歓迎する。
「これまでより近くなったのかなと思うので、連絡を取らせてもらおうかなと。若手中心になると思うんですが、中堅やベテランになろうとする選手もいろいろ考えていることがあると思うので、少しでも気にかけていただきながら、こちらからもアプローチしていろいろ話を聞かせていただきたいなと思います」
3連覇の始まりとなった2016年は、現役時代の新井監督と黒田氏の2人が主役だった。2023年は主役の座を後輩たちに譲って、2人のレジェンドがチーム再建を担う。
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