炎の一筆入魂BACK NUMBER
「聞いてくれる、否定しない、いて欲しい」巨人に電撃復帰のチョーさんこと長野久義が、4年間の広島在籍で残した爪痕
posted2022/11/06 11:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
長野久義が広島の選手として過ごした時間は、1395日で終わりを迎えた。11月2日、広島と巨人の両球団から長野久義の無償トレードが発表された。
別れが突然だったように、始まりも突然だった。2019年1月7日、巨人へFA移籍した丸佳浩の人的補償として、広島が指名した選手が長野だった。若手選手ではなく、前年の丸よりも年俸が高い主力選手の獲得は、驚きとともにチームに伝わった。
加入当初、迎え入れた選手たちには当然「巨人の長野」というイメージが強くあった。見定めようとする距離感、遠慮がちな態度が見られた。その溝を埋めたのは、長野自身だった。
輪の中心となって周りを巻き込むのではなく、自然にその場の空気を和ませる。それは巨人時代に「チョーさん」の愛称で親しまれたそのままの姿。選手だけでなく、関係者やスタッフにも分け隔てなく接し、誰にでも気遣いできる人柄はすぐに受け入れられた。
同じ外野手で、ポジション的にはライバルである野間峻祥は、そんな姿を「ザ・格好いい」と表現する。
「最初はクールにやるのかなと思っていたんですけど、凡退したときにすごく悔しがる姿が印象的で、すごく熱い人だなと。いろんなところを見ているし、すごく視野が広い。野球に関してもそうだし、野球じゃないところでもそうでした」
チョーさんの存在感
先頭に立ってチームを鼓舞するタイプではないが、淡々とプレーしているわけでもない。胸に秘めた熱い思いはチームメートに伝わっていた。コーチ陣も遠慮しがちな、リーグ3連覇を知る主力にも助言ができる。控え選手を盛り上げたり、二軍でチャンスに恵まれない若手を励ましたりと気遣いができる。これまでの広島にはなかった年長者の姿だった。
まだクライマックスシリーズ進出に可能性を残していた今シーズン終盤、長野が二軍降格したときには「チョーさんは今のチームに必要」と嘆く主力もいた。
広島在籍4年で296試合の出場にとどまり、通算打率は.241に終わった。広島移籍前年まで入団から100安打、2桁本塁打を9年連続で記録してきたスラッガーからすると、不本意な数字だろう。明確な理由は定かにならなくても、何か歯車が噛み合わなかった。それはトレードが発表された日、鈴木清明球団本部長のコメントからも感じられた。
「チームのために一生懸命やってくれて、選手から尊敬され、ファンから愛されて、人格的にも、プレーヤーとしても素晴らしい選手だったのは間違いない。ただ、昨年から出場機会が少なくなって、いい形で起用できなかったのはある」