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井上尚弥が挑む4団体統一戦の“歴史的な価値”とは? バトラーにKO勝ちなら史上初の快挙達成、「1.01倍」の確勝級オッズも
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKYODO
posted2022/12/12 17:02
12月10日の会見で握手を交わす井上尚弥とポール・バトラー。12日の前日計量もそれぞれクリアし、いよいよ決戦を待つのみとなった
「基本に忠実」なバトラーだが、番狂わせの可能性は…
さて、そんな井上と拳を交えるバトラーとはどんな選手なのだろうか。井上との対戦を避けることもできたはずのWBO王者は「この試合を受けないという選択肢はなかった」というから、まずはその心意気に敬意を表したい。
アマチュア国内王者をへてプロ入りした34歳は2014年にIBF世界バンタム級王座を獲得。防衛戦をしないままタイトルを返上した。翌年、スーパーフライ級に下げて世界挑戦するも失敗。昨年末に指名挑戦者としてWBO世界バンタム級王者(当時)のジョンリール・カシメロ(フィリピン)と対戦予定だったが、カシメロの体調不良を受けて試合はキャンセルに。今年4月の仕切り直しの一戦でも、カシメロが英国ボクシング管理委員会の規定に抵触し出場を取り消されたため、代替案として急きょジョナス・スルタン(フィリピン)とのWBOバンタム級暫定王座決定戦が組まれた。バトラーは同決定戦に勝利し、カシメロの王座はく奪により正規王者に昇格した。
クリーンなボクシングをする選手で、ガードを高く上げ、脚を使ったワンツー主体のスタイルは「基本に忠実」という言葉がよく似合う。マネジャー兼トレーナーのジョー・ギャラガー氏は「最大の武器はボクシングIQとスピード。オールラウンドで完璧なファイターだと思う」とバトラーの頭脳を強調した。
練習を視察した大橋会長は「映像で見るよりもパンチが強かった。特に左は強い。フットワークも小刻みで、日本人選手にはなかなか見られないフットワークだった」と語っており、「侮れない」という印象を持ったようだ。
井上本人は「バトラーは高い技術を持った選手なので、最近見せられていないテクニックの高い試合を見せられるのではないかなと思う」と技術戦を予想する。前回のノニト・ドネア(フィリピン)戦は豪快に圧倒した2回TKO勝ちだっただけに、今回はテクニックでファンを魅了したいという思いもある。
このように井上サイドはバトラーを高く評価し、警戒もする一方で、周囲は今回も井上の圧倒的有利を予想する声が多い。これまでの戦いぶりや爆発力の差を考えれば無理もなく、海外のブックメーカーが出しているオッズはおおむね40対1、中には100対1で井上が有利(勝利の倍率が1.01倍)というものもある。
ギャラガー氏は「ダグラスがタイソンに勝った例もある」と1990年に東京ドームでマイク・タイソンがジェームス・ダグラスに敗れた世紀の番狂わせの再来を予告したが、あの“東京ショック”を持ち出すということ自体、このミッションがいかに難しいかを物語っていると言えるだろう。