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ハンバーグ→銀だら→ウナギ→カレー…日本代表の鉄板勝負メシを作り続けるシェフが、森保監督を一度だけ怒らせたある言葉とは?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/11/11 11:00
西さんは1962年生まれ。18歳で料理の道に入り、日本代表以外にも浦和レッズ、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレなどの帯同シェフとして選手を支えている
今回はこれまでのワールドカップと違って拠点を変えなくていいため、シェフの立場からすれば当然、負担は軽減される。滞在するホテルではサポートしてくれるシェフのなかに中華を専門にする人がいるのも大きいと西は言う。
「やってほしいことが伝わりやすいですよね。揚げ物はNGなのでたとえばエビチリをつくるにも、下味はこうで片栗粉をつけてお湯に入れてソースに絡めてくださいと言えば分かってもらえます。今回は日本から食事もつくれる栄養士も帯同しますし、料理の幅や種類も増やしていけるんじゃないかとも考えています。食事会場も視察させてもらいましたが、広いし、開放感があって外の景色も見える。不安なことは今のところ何も見当たらないので、料理をつくっていくことに専念できそうです。
森保(一)監督はロシアのときもコーチングスタッフとして参加されていましたので、僕の料理やスタンスはすべて分かってもらっています。そのうえで『全部任せます』と言ってもらっているのでしっかりやっていきたいと考えています」
森保監督を怒らせた言葉
指揮官は食事会場に入るときも、出ていくときも食事を提供する西のところまで足を運び、挨拶するのはいつもの光景だ。スタッフ一人ひとりの仕事をリスペクトし、感謝を伝えることを忘れない人だという。
だが西は、そんな森保から一度だけ「ちょっと怒られた」ことがあるという。今年3月、アジア最終予選アウェーのオーストラリア戦に勝ってワールドカップ出場を決め、チームが宿舎に戻ってカレーを食べるため食事会場に足を運んだときのことだ。
「西さん、勝ちました! 西さんのおかげです!」
そう声を弾ませて勝利を報告する森保に「おめでとうございます!」と返すと、しかめっ面に変わった。
「監督の表情が変わっちゃったんですよ。『おめでとうございます、じゃないですよ。仲間でしょ。他人行儀に言うのは止めてください!』って。この人は凄い人だなって思いましたよ」
チームに対する深い愛情は変わらないが、「チームに関わる者の一人」としての意識を強めている。大会後の“卒業”をわざわざ口にするのも、退路を断って臨みたいとする思いがあるからだ。
用意周到、準備万端。
勝利を呼ぶ鉄板ローテーションを引っ提げて、戦うシェフがドーハの厨房に立つ——。