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ハンバーグ→銀だら→ウナギ→カレー…日本代表の鉄板勝負メシを作り続けるシェフが、森保監督を一度だけ怒らせたある言葉とは?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/11/11 11:00
西さんは1962年生まれ。18歳で料理の道に入り、日本代表以外にも浦和レッズ、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレなどの帯同シェフとして選手を支えている
なぜ、そこまで愛されているのか——。
ハンバーグは牛ヒレ100%のためヘルシー。手作業で肉をミンチにして玉ねぎ、パン粉、牛乳でつくりあげる。ソースも玉ねぎを炒めたものを使う。
「ゴロゴロ肉をあらびきにして、そんなに混ぜないんです。食べた瞬間に肉がほぐれて、肉汁がバーッと口のなかに広がっていくようなハンバーグですね」
試合2日前のディナーに登場するのが銀だらの西京焼きである。西が懐石料理の修行をしていた駆け出しのころからつくってきた得意料理の一品でもある。
「昔はホッケとか赤魚とかいろいろ持っていってつくったんですけど、あんまり食べてくれないんですよ。でも銀だらの西京焼きだけは別で、抜群に食べてくれますし、若い選手にも好評なんです」
ちなみにハンバーグとの“直接対決”にも一度勝利したとか。西が言葉を続ける。
「いつかは忘れましたけど、きょうは西京焼きの日だけど、ハンバーグも一緒にやっちゃえって両方出したことがあったんですよ。そうしたら銀だらがなくなって、ハンバーグのほうが残っちゃったんです。ハンバーグも手間を掛けてつくりますから、アレレと思っちゃって(笑)。まあ、みなさん銀だらモードだったこともあるんでしょうけど、あれからはかぶらないようにしています」
前田のウナギ、中田のカレー
試合前日の食卓を飾るのが、ウナギの蒲焼き。疲労を回復させて活力が出てくるという効果がある。南アフリカワールドカップでは初戦のカメルーン戦を控えた前夜、現地ホテルのガスコンロの火力があまりに弱く、調理場に長時間こもって焼き上げたという“武勇伝”を持つ。意地で提供した蒲焼きが、カメルーン戦の勝利を呼ぶ活力を与えたのだ。
「確か、前田遼一さんが代表でプレーしていたころ、普段Jリーグの試合の前日はウナギを食べてるってテレビで紹介されて、それいいなって思ったのが始まりだったと記憶しています。ビタミンB1が豊富で、ご飯をいっぱい食べられて疲労回復につながるのもいい。選手のみなさんからも好評だったので“試合前日はウナギ”で定着しました」
そしてウナギの蒲焼きのもっと前から定着していたのが試合後のカレーライスだ。これは西が代表専属シェフになる前から続く風習。フランスワールドカップ以前、中田英寿が試合前の食事としてカレーを要望したことが始まりとされ、それが時を経て「試合前」から「試合後」になったというわけだ。
西のカレーは鶏肉と野菜がゴロゴロと入った家庭的な味。「試合おつかれさまでした」という愛情のスパイスもこめてじっくりと煮込む。
蒲焼きもカレーも、美味しく食べられるようにとお米にこだわり、カタールでは現地で購入できる新潟産を使用するそうだ。