炎の一筆入魂BACK NUMBER
「聞いてくれる、否定しない、いて欲しい」巨人に電撃復帰のチョーさんこと長野久義が、4年間の広島在籍で残した爪痕
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2022/11/06 11:02
7月16日の巨人戦で満塁本塁打を放ち、祝福される長野。2022年の本塁打は3本、打率は.211で低調なシーズンとなった
10月上旬から長野と来季の契約交渉を続けていた球団は、減額制限を超える年俸を提示しつつ、水面下で巨人にトレードを打診していた。いつか巨人に帰るべき選手では、と鈴木球団本部長は感じていた。
「巨人に入りたくて、(2度のドラフト指名にも)巨人を貫いた選手なので、いつかユニホームを脱ぐことがあるとしたら巨人で脱ぐべきじゃないかなと思っていた。今年も途中からコロナもあって出る機会も少なくなって、巨人への道があるかと模索した。巨人に帰ることで、昔の新井(貴浩)監督がそうだったように、よみがえるかもしれない(長野と同じ38歳で迎えた2015年から古巣広島に復帰し、2016年にМVP受賞)。ファンの人にとっては残念な気持ちがあるかもしれないけど、1人の野球人生を考えたときにこの形が一番いいんじゃないかと理解してもらいたい」
真っすぐな姿勢で野球とチーム、ファンと向き合ってきた姿が、広島と巨人の両球団を突き動かしたのか、巨人への無償トレードがまとまった。巨人が受け入れなければまとまらなかった。広島もドラフトも終わった時期に支配下選手枠を1つ減らすことで痛みは伴った。それだけのものを長野が広島で示し、広島に残したと言える。
広島で得た財産
広島で最後の取材を受けた長野は感謝の言葉を並べ、そして涙を流した。
「一から人間関係を構築するという、それが最初は不安だったんですけど、気がつけば4年間で(巨人時代の)倍の信頼できる仲間たちができたのが一番よかったと思います。本当に素晴らしい球団関係者の方たち、チームメート、ファンの皆さんに会えたことが一番、僕の財産になったと思います。受けた声援は忘れません」
広島では喜びよりも葛藤、苦しさの方が多かった。最後に流した涙の理由は、声援を送ってくれたファン、そしてチームメートへの思いだったのかもしれない。ただ、その思いは一方通行ではない。
「気付いたことがあれば、すぐに声をかけてくれた」
「チョーさんは、僕みたいな若い選手の話もしっかり聞いてくれる」
「チョーさんは否定しない。自分が試してやっていることを必ず肯定してくれる」
「あれだけ経験されている人の言葉は本当に響いた」
「チョーさんにはチームにいて欲しい」
ともに戦った仲間の言葉が、長野と広島の1395日の深さを物語る。来季は再び、巨人・長野が広島の前に立ちはだかり、広島ナインが成長した姿で迎え撃つ——。両者の関係は移籍によって終わるのではなく、新たな物語が始まる。誰もがそう願っている。
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