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「聞いてくれる、否定しない、いて欲しい」巨人に電撃復帰のチョーさんこと長野久義が、4年間の広島在籍で残した爪痕 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/11/06 11:02

「聞いてくれる、否定しない、いて欲しい」巨人に電撃復帰のチョーさんこと長野久義が、4年間の広島在籍で残した爪痕<Number Web> photograph by JIJI PRESS

7月16日の巨人戦で満塁本塁打を放ち、祝福される長野。2022年の本塁打は3本、打率は.211で低調なシーズンとなった

 広島でも笑顔を絶やさなかった裏で、葛藤や多くの苦しみもあったに違いない。広島は選手を猛練習から育成して強化してきたチーム。そこに強いこだわりとプライドを持った関係者や首脳陣もいる。練習から内容を求める方針もある。関係者の中には、天才肌タイプの長野を異端に感じていた者もいた。

 加入した2019年は3連覇の翌年、4連覇を狙おうかというタイミングで、広島の外野には多くの若手がいた。そのシーズン序盤に調子が上がらなかったこともあり、7月には故障以外では新人の2010年9月以来となる二軍降格を味わった。“長野外し”は「競争」という無言メッセージとしても有効だった。

 長野は自身のスタイルを頑なに貫くのではなく、広島流を重んじた。二軍で初めて顔を合わせる若手にも声をかけ、ともに汗を流した。練習後のケージの片付けにも率先して加わり、県をまたぐバス移動にも文句一つ言わなかった。一軍復帰後も、本拠地試合の早出特打に若手とともに参加した。

 再昇格後は打率.311の成績を残し、2年目の2020年も打率.285、2年ぶりのニ桁10本塁打、42打点を残して健在ぶりを示した。

ベテランがゆえの苦悩

 だが、広島は若手に多くチャンスを与える球団でもある。チーム内の代謝を上げることで世代交代しながら、チーム力を上げていく。チーム戦績が悪くなれば、その色はより濃くなる。首脳陣もファンも、若手の積極起用による可能性に活路を見いだそうとする傾向にある。

 一軍に同行しながらも、出場機会を与えられない日々に自らの存在意義を見失いそうになったこともある。「自分の存在が若い選手の出場機会を奪っているのでは」という思いを巡らせ、自由契約となる覚悟で鈴木球団本部長に伝えたこともあった。

 今年まで2年続けてチームに新型コロナ感染者が出て、空いたポジションに若手が台頭したことも重なり出場機会は激減した。今季はプロ入り後、最少の出場58試合。代打の序列も下がり、8月28日の巨人戦では、4回の代打に送られたこともあった。

 広島で過ごした4年間は、我々に見せた笑顔の時間よりも、人知れず奥歯をかみしめた時間の方が長かったのかもしれない。

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