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「母親みたいな目線で見ちゃいました」1年前に“危機感”を訴えていた竹下佳江は、女子バレー眞鍋ジャパンの躍進をどう見た?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byJMPA
posted2022/10/21 17:00
自身の現役時代を振り返りながら、眞鍋ジャパンの世界選手権での健闘を称えた竹下佳江。セッター陣への言及も興味深い
「今のチームを見ていると、いろんなことが明確になっているのかな、というのは感じます。世界と戦うためにサイドはこうあるべき、セッターはこうやっていくべき、そうすれば世界の上位に食い込んでいける、と眞鍋さんは具体的に示したんじゃないかと思うんです。実際、合宿に行っても、久しぶりにこれだけ思い切りサーブを打つ選手を見た、とびっくりするぐらい、全員が迷わずサーブを打っていました。それだけでも、何をどうすればいいか、取り組むべきことが具現化されたことによって、選手がやりやすくなったのかな、とは感じますね」
竹下は都内だけでなく、姫路や薩摩川内と国内の合宿に足を運び、練習に参加した。驚かされたのはサーブだけにとどまらず、むしろ新たな発見ばかりだったと振り返る。
「選手のほうからコミュニケーションを積極的に取りにきてくれたし、こちらが『どう?』と聞かなくても、選手からこういう時はどうなのか、どうしたらいいのか、と次々言葉が出てくる。私は惜しみなく自分の持っていることや考えを伝えるつもりでいたので、その姿勢はありがたかったです。眞鍋さんは『お前らよくテン(竹下)と話せるな、怖いのに』と言っていましたけど(笑)」
選手とスタッフのコミュニケーションが密に取られていることは、練習中だけでなく、その前後や宿舎でのやり取りからも伝わってきた。「選手が疑問を感じても言いやすい雰囲気があった」と竹下が振り返るように、世界選手権のコートでもそれが感じ取れた。
象徴的だったのは、予選ラウンドの中国戦で負傷した古賀紗理那に代わってブラジル戦から出場した石川真佑の活躍だ。
速いトスに悩む石川真佑が活躍できた理由
眞鍋監督が就任以後、チームに掲げた攻撃コンセプトは、高さで勝るブロックに対してスピードを意識し、前衛・後衛を含めた4枚が同じタイミングで攻撃参加すること。セッターの手を離れてヒットするまでの時間を0.8秒と設定している。
速いトスを寸分違わぬタイミングで打てば相手は為す術がないが、速さばかりを意識すればトスが低くなり、アタッカーの選択肢は限られる。特に多少乱れた状況からでも高いトスを打ち切ることを得意とする石川は、世界選手権が始まってもなお、この速さに対して苦戦が続いていた。
「速いトスを打つことがチームのコンセプトではあるけれど、疑問に思うことや不安を感じるところは直接、監督にぶつける。合宿中からそういう関係性ができていたと思います。このチームの象徴である紗理那のスピードが基準になって、結果的に(井上)愛里沙のバックアタックのスピードはものすごく速くなった。でも真佑は速さを意識するとトスも低くなり、打点が下がる。悩んでいる真佑にスタッフも寄り添っていたし、どうするのがベストかを考える。そのやり取りが合宿中からベースとしてできていたのが、すごく大きかったんじゃないかと思います」
事実、石川は世界選手権の中で本来の動きを取り戻し、高さで勝るブラジルのブロックをもろともせず、自分の得意なコースへ打ち付けた。
加えて、冗談のようなエピソードもある。石川は生真面目で、自分で決めたことは何があっても徹底してやり抜くタイプ。そんな性格を知ってか、眞鍋監督が何気なく発した言葉が力を抜くきっかけになった。竹下はその舞台裏を明かす。
「眞鍋監督が『真佑、おだんごもいいけど、ポニーテールにするとか、髪型ちょっと変えてみろよ』と言ったらしいんです。真佑の性格を考えると、何かを変えることは怖かったと思うんですけど、1つのきっかけとして、変化を選んで、結果的にもプラスになった。技術的な話はもちろんですけど、どうにかしてあげたい、何か気持ちからでも変えていこうよ、という思いが“ポニーテール”のアドバイスになったんでしょうね」