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アントニオ猪木vsビッグバン・ベイダーは“大暴動”に発展…新日本プロレスが迎えた“巨大な転換期”と「猪木の二面性」の正体

posted2022/10/25 17:16

 
アントニオ猪木vsビッグバン・ベイダーは“大暴動”に発展…新日本プロレスが迎えた“巨大な転換期”と「猪木の二面性」の正体<Number Web> photograph by Essei Hara

12月27日、TPGからの刺客として登場したビッグバン・ベイダーとアントニオ猪木が対戦

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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Essei Hara

10月1日に逝去した名レスラー、アントニオ猪木。昭和のプロレス界を牽引し続けた新日本プロレスと猪木だったが、1980年代後半に大きな転換点を迎えることになる。『闘魂と王道 昭和プロレスの16年戦争』(ワニブックス刊)より、「1987 海賊男、世代闘争、巌流島、TPG……ゴールデンタイム時代最後の断末魔」の章を抜粋して掲載する。87年10月4日、猪木とマサ斎藤が「巌流島決戦」を行う一方で、新世代側も動き始めていた――。《全2回の後編/前編からつづく

 一方、新世代側の藤波と長州は、巌流島決戦と同時期に約3年半ぶりの一騎打ちを行う。この試合は長州のテレビ放送復帰第一戦であり、かつての名勝負数え歌の再現が期待されたが、気持ちが空回りして観客の熱狂を呼ぶことはできなかった。

「名勝負数え歌の頃は、長州も本気で俺を蹴落とそうとしていたし、俺も自分のポジションを奪われかねない危機感で必死だった。その本気の思いが観客にも伝わっていたと思うんだけど、世代闘争のあとは、お互い立場も考え方も昔とは変わってしまったんだよね」(藤波)

 藤波vs長州は、猪木vsマサ斎藤の巌流島決戦に話題性でも試合内容の評価でも勝つことはできず、事実上、新旧世代闘争は新世代側が猪木の牙城を崩せずに終わったかたちとなったのだ。

長州と前田はプロレスを超えた“ケンカマッチ”に…

“革命”が頓挫したあと、待っているのは内ゲバだ。11月19日、新世代軍同士だった長州と前田が6人タッグマッチ(長州、マサ斎藤、ヒロ斎藤vs前田、高田延彦、木戸修)で対決。かねてから犬猿の仲と言われた長州と前田の対戦は、案の定、プロレスを超えたケンカマッチとなり、試合中盤、長州が木戸にサソリ固めを仕掛けようとすると、前田が背後から回り込み長州の顔面をキック。この不意打ちで長州は右目を大きく腫れ上がらせ、右前頭洞底骨折、全治1カ月の重傷を負ってしまう。

 人間の鍛えられる部分に攻撃を加え闘いを演出するプロレスにおいて、背後から不意打ちで目を狙った(とされる)前田の攻撃は「プロレス道にもとる行為」とされ、新日本は前田に無期限出場停止処分を下すにいたった。

 この事件を同じ新世代軍だった藤波はこう語る。

「あれは長州と前田、お互いのエゴがぶつかった結果だね。とくに、前田はUWFを団体として再興したいと考えていたのに、新日本に取り込まれつつあったから、危機感があったと思う。プロレスはお互いのいい部分を引き出し合う競技という側面があるけど、あの頃は、それぞれが野心を持っていたから、潰し合いになってしまったんだよね」

【次ページ】 大一番で登場したTPGとビッグバン・ベイダーだったが…

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