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《Moto2》連勝なるか? 日本GPで会心の大逆転勝利を挙げた小椋藍がタイGPで迎える、チャンピオン争いの正念場
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/09/30 11:01
3年ぶりの母国GPで見事な勝利を遂げ、表彰台で喜びを露わにする小椋。タイGPで連勝すれば王座はぐっと近づく
それは、ウイニングランを終えてパルクフェルメに戻り、スタッフや家族の熱烈な祝福を受けた後のこと。小椋がしばらくヘルメットを取らなかったからだ。
「藍、あのとき、泣いてたんじゃないの?」
すると彼はこう答えた。
「青山さんが泣いてるのを見て、絶対に泣くものかと思いましたよ」
半分は冗談にしても、実に小椋らしいコメントだった。
これで小椋はシーズンでもMoto2のキャリアでも3勝目。シーズン前半のスペインGPの初優勝、中盤戦オーストリアGPでの2勝目、小椋にとってはどちらもうれしい勝利だったが、3回目は間違いなく最高の勝利だったに違いない。ウイニングランではこれまで見せたことがないアクションの数々があった。表彰台に立ったときも、両手を広げて天を仰ぐ。本人はいつも「思い切り喜んでいるつもり」と語るが、日本GPの優勝は、見ている者にその喜びがダイレクトに伝わってくるものだった。
チャンピオンのメンタリティ
既報通り、小椋は来季のMoto2クラス残留を決めたが、フェルナンデスは来季MotoGPクラスにスイッチする。Moto2王座を賭けた終盤の戦いに、2人の決断がどう影響するのか気になるところでもある。
そんな小椋の成長を見届けてきたレプソル・ホンダ・チームの監督で、青山博一の師でもあるアルベルト・プーチは、日本GP後にホンダのリリースでこう語っている。
「小椋は本当に素晴らしいレースをした。私はとてもうれしい。彼のことは(若年層を育成する)アジアタレントカップ時代から知っている。彼は日本GPでプレッシャーに負けず、どれだけ成長したかを見せてくれた。日本人ライダーにとって、もてぎでレースをするということはいつもよりプレッシャーがかかるものだが、彼はそれを乗り越えた。チャンピオン争いをしていると、そのリザルトに甘んじやすく、余計なリスクを負わないようにしがちだが、彼はここで勝ちたいと思った。たとえ何があろうと彼は勝つためにプッシュした。これは彼の性格を表しているし、彼はチャンピオンのメンタリティを持っている」
当の小椋はプーチ監督に「どうだ、調子は?」と聞かれると、いまでも背筋が伸びるのだという。育成シリーズを戦っている頃から、「調子がいいのなら、全力でいってこいと言われるのが好きだった」と話す。これもまた、小椋の性格を知る言葉になるのではないだろうか。
プーチ監督のように「よし、全力でいってこい」なんてアドバイスはできないが、タイGPで小椋は優勝すると信じている。そして、日本GPからの2連勝を達成し、チャンピオンに大きく前進するに違いない。
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