モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
《3年ぶり日本GP開催》Moto2注目の日本人ライダー・小椋藍が、得意のもてぎで勝利を狙える理由とチャンピオン争いの行方
posted2022/09/23 06:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
日本GPを目前にして、Moto2で総合2位。首位のアウグスト・フェルナンデスを7ポイント差で追う小椋藍は、今年チャンピオンになれるのだろうか? 最近、仕事仲間や知り合いからこうした質問をたくさん受けるが、もし小椋に「チャンピオンになれる自信は? アウグストに勝つ自信は?」なんて質問をしたら「そんなことわかるわけないじゃないですか」とピシャリと言われるに違いない。
小椋がいちばん嫌う質問は「これからどうなるか」という予測だが、レースを戦う上での気持ちとしては「勝ちたい」「チャンピオンになりたい」といつも思っている。しかし、そういう言葉を聞けるようになったのは、本当に最近のことである。
小椋はグランプリにデビューして今年4年目のシーズンを迎える。この4年間、彼の口から「今週のレースは勝ちたい」「次戦は優勝を目指す」という言葉は一度も聞いたことがない。その理由について彼はこう語る。
「どうしてみんな、そういうことを聞きたがるんですかね。そんなのやってみないとわからないし、わからないことは言えないじゃないですか。終わったこと、これまでのことなら話せますけどね」
それをわかっていながら、僕はいつも「今回は勝てる? 勝てそう?」と懲りずに聞くが、小椋は「またそれを聞く」と笑うばかりで返事はない。
250cc王者、原田哲也との対峙
僕はグランプリを転戦するようになって今年で33年目のシーズンを迎える。最近の日本人ライダーの中では、小椋はかなり取材に気を遣い、緊張感を持って取材するライダーのひとりである。過去、最高に緊張させられた日本人ライダーは、1993年に250ccクラスでチャンピオンになった原田哲也さんだ。デビュー戦で優勝した同年のオーストラリアGPですでにしびれるコメントを残していた。
「優勝したいまの気持ちを聞かせてください。チェッカーを受けたときうれしかったですか?」
「いや、別に……。もう終わったことですから」
舞台はシドニー郊外にあるイースタンクリーク。すでにGP界のトップライダーだったジョン・コシンスキーとの一騎打ちとなり、最終ラップの最終コーナーからの立ち上がりで、コシンスキーのスリップから抜けて僅差で優勝。当時、世界ではまったくの無名の選手だった原田がコシンスキーを負かした。ウインターテストから速くて注目を集めていたが、その期待に応えて、見事、開幕戦でデビューウインを達成した。もっと喜びの声が聞きたかったのだが、彼は「もう終わったこと」と語って取材を終わらせた。