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「あれだけの将棋の天才でありながら…」「短い生涯を酒と女に使いきった男」“賭け将棋”で無双したアマ名人の壮絶すぎる44年間

posted2022/08/14 11:02

 
「あれだけの将棋の天才でありながら…」「短い生涯を酒と女に使いきった男」“賭け将棋”で無双したアマ名人の壮絶すぎる44年間<Number Web> photograph by KYODO

「新宿の殺し屋」小池重明(1947~1992年)。賭け将棋からアマ名人までのし上がった男の壮絶な44年間とは?

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小島渉

小島渉Wataru Kojima

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KYODO

将棋界には“賭け”で生計を立てるものたちがいた――。「勝てば1万円、負ければ12万円」というようなレートで勝負を繰り返した“真剣師”とはどんな男たちだったのか? 「新宿の殺し屋」と呼ばれ、羽生善治九段も「不思議な魅力を感じた」という小池重明。アマ名人になるもトラブルが続いた小池の壮絶な人生とは(全3回の3回目/#1#2へ)。

ヨレヨレズボン姿で、A級棋士にも勝った

 小池重明が平手で倒したプロで、最も強かったのが1982年に指した森けい二だろう。当時は名人挑戦をしたこともあるA級棋士で、小池に敗れた直後に棋聖の初タイトルを獲得した実力者だ。小池はサラ金から逃げ回って飯を食べる金もなく、対局当日はヨレヨレになったグレーのズボン、もとは白かったと思われる薄汚れたポロシャツ、素足にサンダルで東京・将棋会館に現れた。何日も着替えていないことは明らかだった。それを見かねた関係者から対局中にタバコと靴下の差し入れがあったという。

 対局条件は三番勝負の一番手直り。1局目は角落ちで、小池が勝てば次局は香落ち、敗れると飛車落ちとハンデが調整される。初戦は小池が大逆転勝ち。第2局の香落ちも小池勝ち。第3局は平手になった。戦型は小池の四間飛車に森の居飛車穴熊。ねじり合いが続くなか、森が小池の攻めをかわして優勢になる。あとは仕留めるだけかと思いきや、小池が苦し紛れに放った歩打ちを素直に竜で取ったのが敗着。銀を馬で取り、詰めろをかけるべきだった。森はどちらでも勝ちだと思っていたが、実際は毒饅頭を食ってしまった。最後は小池が森の玉を仕留めて、逆転勝ちを収めている。

「将棋連盟に罰金を支払った」は作り話

 アマチュアに敗れた森はかなりのショックだったと思うが、直後に初タイトルを獲得し、さらにはその祝勝会に小池を招待したというのだから大物である。2021年、小池との勝負を次のように振り返った。

「角落ちは秒読みで間違えて逆転負けしてしまって。当初は別の日に2局目を指す予定だったんだけど、熱くなってしまって続けて香落ちをやったんです。さらに負けて、その勢いで平手もやられてしまいました。日をあらためれば冷静になって、香落ちや平手では負けなかったと思うんですが、負かされてカッとなってしまってはいけませんね」

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