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高2のダルビッシュは、なぜ涙を流したのか? ケガをしながら先発も優勝には届かず…主将に抱きつき口にした「すいませんでした…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2022/08/16 17:02
2003年夏の甲子園決勝、常総学院に敗れ涙を浮かべるダルビッシュ。その涙の理由は何だったのか。当時の主将、女房役に話を聞くと…
かつて東北高校の捕手だったという寮監長は言ってくれた。
「ここで全て投げ出したら、お父さんお母さんがいなくなった意味もなくなるんだぞ」
佐藤は野球部に戻った。そして、そこからは否応なく人生をかけて高校野球をやることになった。ある意味でダルビッシュと通じていた。高校野球という閉ざされた世界におけるマイノリティーの痛みも、それゆえの覚悟と強さも佐藤にはわかった。
「コウスケさん、今日カットボールいけそうなんですけど、いっていい?」
公式戦の当日、ダルビッシュはよく初めて投げる変化球をサインに加えたいと言ってくることがあった。
「よし、いこう」といつも佐藤は応じた。
チームに「まだいけるぞ」という笑みを見せ続ける
「好きに(サインに)首振って、自分がこれだと思うボールを投げろ」
投げたいから投げる。痛いところがあれば投げない。全体主義の中で個人を貫く、ダルビッシュの勇気と覚悟が好きだった。
だからこそ逆に、8月の炎天下、ボロボロになりながら甲子園のマウンドに立ち続けるダルビッシュの姿が意外だった。一体、誰のために投げているのか――。
球数が100球を超えてもダルビッシュはマウンドに立っていた。チームに「まだいけるぞ」という笑みを見せ続け、最後まで投げ抜いた。片岡はいつのまにか彼の背中に引っ張られている自分に気がついた。
なぜ泣いているのか、わからなかった
《先頭に立つ。この1試合にかける。ああいう姿はあの試合まで見たことがなかったような気がします》