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教員のブラック職場+生徒減少対策「部活のアウトソーシング」に“2つの格差問題”…「私立と公立」、もう1つは?
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2022/07/06 11:00
部員数が減少し、廃部寸前の高校野球部の用具置き場。古い用具が置かれたままだ
そうした学校に通う生徒の多くは、アルバイトなどで学費や生活費を稼いでいる。ヤングケアラーになっている生徒もいた。朝から疲れているので授業で寝てしまう生徒、さらに不登校になる生徒も多く「就学すること」自体が厳しいレベルだ。
そういう学校では――放課後、整備が行き届いておらず草が生えた、デコボコの校庭で部活が行われる。パラパラと生徒が集まって練習をするが、部員全員が集まることはめったにない。チーム競技では人数が揃わない場合も多い。高校野球では複数の学校が「連合チーム」を組んで公式戦に出場することが認められているが、連合チームが揃って練習できるのは週1回程度だ。
「授業中は寝ている生徒が部活になると……」
教員に話を聞くと「授業中は寝ている生徒が、部活になると元気になって自分から体を動かすことも多い。授業だけなら学校を中退しそうな生徒でも、部活に行くのが楽しいから学校に通っているような子も多い。部活が子供を高校につなぎ留めている」と語っていた。
競技レベルこそ低いが、彼らにとって部活こそが仲間とコミュニケーションをし、スポーツの楽しさを味わうことができる数少ない機会なのだ。
こういう学校の教員は、いろいろな工夫をして生徒にスポーツの楽しさを体感させようとしている。野球では実力的に連合チームを組むことさえ厳しい部もあり、彼らは近所の「早起き野球チーム」などと試合をしたりしている。また近隣の子供たちとバレーボール大会をするなど様々な形で「スポーツのやりがい」を見出している。
教員の中には体育大学を卒業し、前任校で本格的なスポーツ指導をしていた人もいる。公立校につきものの異動で、こういった学校にやってきてショックを受けながらも「彼らにスポーツの機会を与えたい」と懸命に頑張っている。
「スポーツ」は「健康で文化的な生活を送る」という「基本的人権」の一部でもある。定員割れするような公立校の部活は「スポーツを通して生徒の生きる権利を守っている」ということもできる。
2つの懸念は「格差社会」につながる問題でもある
もし運動部活が地域にアウトソーシングされた場合、こうした学校の生徒は、学校以外のスポーツクラブに足を運ばなければ、スポーツができないことになる。場合によっては別途費用も掛かるかもしれない。