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「可能性は1%もない」FC東京の休部から半年…フィンランドにいたバレーボール選手はどうやって“譲渡先”を探したのか? 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byShohei Nose

posted2022/07/05 17:00

「可能性は1%もない」FC東京の休部から半年…フィンランドにいたバレーボール選手はどうやって“譲渡先”を探したのか?<Number Web> photograph by Shohei Nose

昨季はフィンランドリーグでプレーしたリベロ野瀬将平(28歳)。今季は東京グレートべアーズの一員としてVリーグに戻ってくる

「僕が昨年8月下旬に、最初にスポンサー提案にうかがった時、幹部の方が4人も出てきてくださって、真剣に耳を傾けてくださったんです。ネイチャーラボの社員の方ってめちゃくちゃ忙しいんですよ。しかも幹部なんて本当に忙しいのに、その中で時間を作ってくださって、一若造が企画書を持って、夢みたいなことを語っているのを、ばかにもせず、最初から本気で向き合ってくださった。その時の姿に、『もしかしたら』と数パーセントの希望を抱いて、(チームの受け入れを)提案させていただきました」

「チーム譲渡となると僕の知識の範囲を超えていたし、オンラインだけでなくリアルのやり取りも必要になるから」と、親交のあった原口攻太(現・東京グレートべアーズチームディレクター)の力も借りた。Vリーグ機構の広報や四国アイランドリーグの所属チームで球団職員を務めるなど、スポーツ界で幅広い業務経験がある原口が事業計画書などを作成し、野瀬とともにネイチャーラボにプレゼンを重ねた。

 ネイチャーラボは検討に入ったが、困難な要素は山積みだった。野瀬は回想する。

「出てくる数字出てくる数字、やっぱり厳しかった。チームに試合の放映権や分配金がないといったリーグの構造的な問題。V1男子には他にプロチームがないこと。試合会場の問題や、練習場として(FC東京が使用していた)深川体育館を使えるかどうか。しかも2月末までの約2カ月で結論を出さなければいけないというありえないスピード。やっぱり厳しいなという雰囲気はすごくありました。

 でも、ネイチャーラボの人たちは絶対に『無理』と言わないんです。『できる理由を考えよう』という感じで、僕たちと同じ側に立って、どうやったらチームをなくさないか、どうすればこのチームを救えるのかというのをすごく考えてくれた。『こうしたらどうなの?』って、次々にぶつけてくれるんですよ。

 できない理由なんて腐るほどあって、チーム譲渡なんて、正直バレー界のほとんどの人が諦めていたと思う。僕ですら諦めかけていた。その状況で、なぜか赤の他人が、できる理由をめちゃくちゃ探してくれるんです。僕は本当に、嬉しくて……」

 一気に話し続けていた野瀬が、突然声を詰まらせた。

「正直、きつかったので……。チームがなくなるというショックと、同期の手原(紳)たちからかかってくる電話。本当にバレー界が終わると思った。寝られなかったです。バレー界を盛り上げたいと思ってやってきたけど、その結果がこれかーって、自分の無力さに打ちひしがれていた。そんな時に、まだ2回ぐらいしか会ったことのない、すごく忙しい人たちが、時差のある中、夜中の1時、2時に僕とオンラインをつないでくれて、奔走してくれている。大変でしたけど、ありがたくて幸せな話ですよね」

「誰もやったことがないことをやれ」

 ネイチャーラボ専務で、東京グレートべアーズを運営する株式会社グレートべアーズの代表取締役に就任した久保田健司は言う。

「ネイチャーラボには、『誰もやったことがないことをやれ』という風土があります。ですから、厳しい現実や数字が目の前にあっても、『やるならもっとああすれば』『こうすれば』という意見はたくさん出ました」

 野瀬の熱意に動かされたことも理由の一つだ。

「野瀬さんの、ビジネスマンのようなロジカルさと、選手ならではのバレーボールへの情熱が詰まったプレゼンが素晴らしかった。バレーボール界を代弁する立場でお話しされているのが印象的でした」

 もちろん社内では「難しいんじゃないか」という声もあった。

「単に新しい事業を立ち上げるのとは違い、選手、スタッフの人生を抱えているわけなので、買いました、1年やりました、売り上げが少なかったからやめます、ということはできない。受け入れた先に、続けていかなきゃいけない責任がある。ファンも含めて、人の人生を巻き込んじゃうよね、というところが一番議論されたところだと聞きました」と野瀬は言う。

【次ページ】 決め手は「バレーボールの可能性」

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