バレーボールPRESSBACK NUMBER
「可能性は1%もない」FC東京の休部から半年…フィンランドにいたバレーボール選手はどうやって“譲渡先”を探したのか?
posted2022/07/05 17:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Shohei Nose
今年6月、東京で1つのプロ男子バレーボールチームが産声をあげた。
昨年12月に活動休止が発表されたV.LEAGUE DIVISION1(V1)のFC東京が、東京を拠点とする消費財メーカー「ネイチャーラボ」にチーム譲渡され、「東京グレートべアーズ」として生まれ変わった。
シーズン中の突然の休部発表からわずか半年。チームが消滅する最悪の事態は免れた。
きっかけを作ったのは、1人の選手だった。2019-20シーズンまでFC東京に所属し、その後はプロ選手としてイスラエル、フィンランドでプレーしていたリベロの野瀬将平(28歳)である。
昨年12月にFC東京の休部が発表された時、衝撃を受けると同時に、野瀬の顔が浮かんだ。野瀬が動くのではないか、と。
昨年8月中旬、野瀬がフィンランドに出発する前に、こんな話を聞いていたからだ。
「僕、東京に新しくプロチームを作りたいんですよ。一緒にそういうチャレンジをやってくれる会社を見つけたいと思っています。やっぱり首都の、東京のチームがしっかり業界やリーグの中心になっていかないといけないと思う。だから今東京で唯一のチームであるFC東京が担っている責務は大きいと個人的には思っています」
野瀬はすでに動き始めていた。
「『プロチームを作りませんか?』って、直談判したんですけど、いくつか断られました(苦笑)。断られて当然なので、当たって砕けろです。今、V1男子の関東のチームはFC東京だけ。東京だけでなく神奈川も埼玉も千葉も、お客さんを集客し放題です。バレーファンは熱量も高いですし。そう考えると結構夢ありません? だから来年フィンランドから帰ってきたら企画書を持って、また飛び込みに行こうと思っています」
そんな行動力の鬼である野瀬が、古巣の危機にじっとしているわけがなかった。
野瀬はFC東京に所属していた2017年から、自ら買って出てチームのスポンサー営業をしており、FC東京を退団後も「お世話になったチームなので」と続けていた。
「正直、無理だと思っていました」
昨夏、たまたま縁があって出会ったネイチャーラボに、野瀬は当初FC東京のスポンサーになって欲しいと持ちかけていた。自ら資料を作り、フィンランドに出発する直前に会社を訪れプレゼンを行った。渡航後も今季(2022-23シーズン)のスポンサー契約を見据えオンラインミーティングを重ねていた。
そんな中、FC東京の休部が発表された。東京という土地柄、会場確保の難しさや会場使用料が負担となっていたところに、コロナ禍が直撃し、チーム経営に大きな打撃を与えたことが理由だった。野瀬も選手たちと同じタイミングで休部を知らされた。
「そうなったらもう、(ネイチャーラボに対して)『チームを引き受けてくれませんか?』にシフトチェンジするしかないですよね。だからFC東京の部長とネイチャーラボをつないで。でも正直、無理だと思っていました。だってチームスポンサーとして数十万、数百万をいただく話ですら大変なことなのに、急に何億もかかるチーム運営をしませんか?なんて。可能性は1%もないぐらい、“ダメ元”というレベルですらなかった気がします」
ただ、ネイチャーラボに一縷の望みをかけようと思える理由もあった。