濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
舞台の脚本演出も手がける女優が“エンタメ”リングで漏らした本音とは? 松井珠紗22歳のプロレス愛「“ごっこ”で終わりたくない」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/06/09 11:01
舞台の脚本・演出も手がける女優であり、アクトレスガールズでも活動する松井珠紗
「プロレスごっこになってしまう」
「新生アクトレスガールズのアクトレスリングは、プロレスを元にしたエンターテインメント。プロレスって、闘うことでドラマが生まれて、それがストーリーになっていくのも魅力だと思うんですよ。だからお客さんは次も見ようと思ってくれる。でも今のアクトレスガールズにはそれがない。旧体制もうまくできていたかといえば……なんですけど。でもエンターテインメントを謳っている新体制アクトレスガールズなのに、今はストーリーというエンターテインメント要素がまったくない気がして」
プロレスを元にして、プロレスよりも面白いものを作る。それが新生アクトレスガールズの理想のはずだった。だがスタートから数カ月経っても、その片鱗が見えてこない。もちろん、まだ数カ月でしかないとも言えるのだが。
「プロレスを超えたいなら、プロレスをしっかり知って、リスペクトするのが土台だと思うんです。今はそれもできていない。プロレスの真似というか、悪い言い方をすればプロレスごっこになってしまう。私はそれでは終わりたくないです」
松井がアクトレスガールズに残った理由
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アクトレスガールズの新体制移行=プロレス界からの離脱は、団体の分裂を招いた。団体に残る選手もいたが、プロレスに残る、つまり団体を去る決断をした選手も多かった。芸能界からプロレスに挑戦して、もっと試合がしたい、プロレスで勝負したいという者が何人も出てきたのだ。
松井は「アクトレスガールズの活動内容が変わるのがあと2年遅かったら、私もプロレスを選んでいたかもしれないです」と言う。チャンピオンベルトを巻いたことがなく、現時点では団体を出てプロレスを続けるだけの実力が自分にはないと判断した。客観的に見るとそうでもないような気がするのだが、それだけ自分に課したハードルが高いのかもしれない。
プロレス専念ではなく、演劇との同時進行を続けたいという気持ちもあった。演劇部門「アクトリング」でチームを預かる身でもあった。だからアクトレスガールズに残ることにした。ただ残ったからには残っただけの意味がほしい。新生アクトレスガールズにはこんな楽しさがあります、ここが面白いです、と自信を持って言いたい。それができるようになることが、旧体制から所属している人間としての責任でもあると松井は考えている。
「私は去年までのアクトレスガールズも大好きで。新体制を大きくするのは去っていった人たちへの恩返しにもなると思ってます。“みなさんの古巣は元気にやってます、こんなに大きくなりました”って言いたくて。今のままのアクトレスガールズでは終わりたくないです。このままの状態では続けたくない。始まったばっかりだけど選手はたくさんいるじゃないですか。未来しかないはずなんです」
「チャンピオンベルトがほしい」
言っていいのか分からないですけど、と前置きして、松井は団体にチャンピオンベルトがほしいと言った。選手の闘う理由、目標がほしいと。あくまで個人的な希望だ。今、団体はタイトルを制定していない。去年までのシングル、タッグ王座は封印されている。
仮に新生アクトレスガールズに王座が制定されたとして、それはどんな意味を持ち、何を競うものになるのか。その定義づけのためにもベルトが要るということなのかもしれない。
「今日も頑張ったね、やりたい技がうまくできたねで終わるんじゃなく、先につながるものがあれば。主張したからには、私も今まで以上にアクトレスガールズに注力しなきゃいけないと思ってます。それでも変えられなかったら、自分の出る幕じゃなかったんだなと思うしかないですね」
プロレスではないと団体が明言したこともあり、昨年までに比べて取材する媒体も減っている。けれどそういう中で、青野は「プロレスラーを引退したわけではないです」と言っているし、松井は今やっていることが「プロレスを元にして始まった」ことにプライドと責任を感じている。彼女たちにとっても、プロレスは人生を変えるくらい魅力的なものだった。今はプロレス界にいなくても、そこにあるプロレスへの思いまで見過ごすのは惜しい。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。