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フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生、紀平も治療を受けたカナダの日本人指圧師が“フィギュアスケートの怪我問題”に警鐘を鳴らす理由「人体を理解せず、しごきが美化されている」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura/Getty Images
posted2022/05/24 11:02
日本人トップスケーターたちをトロントで支える指圧師の青嶋正さん
「フィギュアと怪我」の問題に警鐘も
だが実際に現在のフィギュアスケートにおいて怪我は「仕方のないこと」と受け止められ、コーチの責任が問われることはほとんどないのが現実だ。フィギュアに限らず、スポーツ界では選手が消費され、使い捨て状態になっている一面も否定できない。だが青嶋氏によると、そのほとんどは避けられる怪我なのだという。
「一番わかりやすいのは、とりあえず走らせる、という指導。コーチはスタミナをつけさせると言うけれど、スタミナの鍵は、酸素の供給量です。10%、20%増やしてあげれば、楽にスタミナは増える。呼吸って横隔膜が勝手にやってくれてるイメージがあるけど、実際に呼吸を大きくするには、いかにして胸郭を緩めて肺のキャパを増やしていくか。ところがアスリートはいつも緊張下にあるので、胸郭が固まっている人が多いんです」
「人体を理解せずに、しごきが美化されている」
そういう基礎的な人体のメカニズムが、ないがしろにされていると青嶋氏は憤慨する。
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「そういう選手たちを走らせて、スタミナをつけさせるというのはナンセンス。足首が動かなくなっている選手を走らせると、膝が痛くなるか、足首を捻挫する。そういったことを理解せずに、しごきが美化されている」
あるスケーターは、国際大会に出場したが体調が悪くてSPで息切れがひどく滑り切るのがようやくだった。これではフリーはもたないと懸念し、青嶋氏が肋骨の間に鍼を打って胸郭を緩めると、その翌日のフリー4分は余裕で滑り切ったのだという。
その青嶋氏のところに、木原龍一が治療を受けに来たのは、彼が三浦璃来とペアを組んで2019年の夏にカナダに移住したおよそ半年後のことだった。
《後編に続く》