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フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生、紀平も治療を受けたカナダの日本人指圧師が“フィギュアスケートの怪我問題”に警鐘を鳴らす理由「人体を理解せず、しごきが美化されている」
posted2022/05/24 11:02
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Akiko Tamura/Getty Images
カナダのトロントには、多くのフィギュアスケーターが集まる。名門のクリケットクラブやグラニットクラブなどの充実したスケート施設がいくつもあり、ローリー・ニコルやデイビッド・ウィルソンなど著名な振付師がいる。一流コーチも数多くいるため、昔から日本の選手も振付などで訪れ、ここを拠点にした選手も少なくない。
トップ選手だけざっとあげてみても、村主章枝、織田信成、羽生結弦、樋口新葉、宮原知子、紀平梨花、そしてペアの三浦璃来&木原龍一などがこの街でトレーニングをしたり、振付のために短期滞在などをしてきた。
その選手たちから「トロントの父」とも慕われてきた青嶋正さんは、関係者の間では知らない者はいないと言っていい、凄腕のマッサージセラピスト、鍼灸指圧師である。スケーターだけでなく、プロのサッカー選手、そしてバレエダンサーなども彼の診療所を訪れる。
『白鳥の湖』3日前に駆け込んできたプリンシパルダンサー
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筆者もトロントに行くたびに施術を受けてきたので、青嶋氏の腕前はこの身体で実感している。パンデミックもようやく落ち着いたこの5月、3年ぶりにトロントに行き、取材前に腰痛治療をお願いした。
診療所に入ると、ナショナル・バレエ・オブ・カナダの有名なプリンシパルダンサーの笑顔の写真が目に入った。手書きのメッセージが添えられたものが額に入れて壁にかけてある。
「『白鳥の湖』を踊る3日前に、脚が痛くて歩けないと言って電話をかけてきたんです」。彼女は青嶋氏の治療を受け、無事にオデットも黒鳥のオディールも踊りきった。その時の感謝のメッセージなのだという。
青嶋氏には、このようなエピソードは山ほどある。
単なる気持ちの良いマッサージではない。身体のどこがストライキを起こしているのか。それに影響を与えている筋肉、腱、筋膜はどこなのか。それをピンポイントで押さえて何が起きているのかを説明しながら、丁寧に緩めていく。
「ジャンプが跳べなくなるのには必ず理由がある」
腹ばいに横たわり、尾てい骨の横、臀部の付け根を押されると何やら重い塊があった。
「これこれ。ここが硬くなるとね、アクセルで転ぶようになるんですよ」と青嶋氏。筆者はとりあえず、今後の人生においてアクセルを跳ぶ予定はないのだが。
アクセルは唯一、前向きに踏み切るジャンプだ。後ろ向きに滑走しながら振り返るような姿勢を取り、左足を前向きに踏み込む一瞬、股関節は180度近くに開く。だがお尻が硬くなってしまっていると、ここで開ききれないのだという。
「お尻がパンパンだと、テイクオフで踏み込む足が、正しい方向を向かないんです」