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福永祐一「まさに運命の名牝ですね」 シーザリオは日米欧オークスを獲るつもりだった? 今だから明かした“幻の仰天構想”とは
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byKiichi Yamamoto
posted2022/05/21 17:01
父スペシャルウィーク、母キロフプリミエール(英)。栗東・角居勝彦厩舎。'04年にデビュー、'05年オークス制覇。続くアメリカンオークスで父内国産の日本調教馬初の海外GI制覇。'06年引退、繁殖牝馬となり3頭のGI馬を輩出。今年2月27日没。通算6戦5勝
これは誰も気づかなかった福永の深謀遠慮だった。この'05年はシーザリオが日米のオークス連勝の快挙を達成して話題を集めた年で、米国ロサンゼルスのハリウッドパーク競馬場でアメリカンオークス(芝1マイル1/4、GI)を勝って凱旋した殊勲馬の次走を、福永だけは密かにヨークシャーオークス(芝11ハロン188ヤード、GI)へ挑戦するプランを温めていたのだ。今年スノーフォールが勝ったレースで、オークスの名がついているが、古馬も走れる牝馬限定戦だ。もし勝てば、日米欧をまたぐオークス制覇。誰もやったことがない、いや誰も発想さえしなかった仰天構想が福永の頭の中には描かれていたのだ。
もしもシーザリオが故障引退していなかったら…
角居勝彦調教師と福永の縁は、シーザリオが事実上の起点。きっかけを得たあとの急速な深まりは競馬観が非常に近いところにあったからだ。
オークス馬をアメリカンオークスへ連れて行く発想は角居調教師ならではのもの。かつてウオッカをオークスかダービーかで迷ったときに「どうせならワクワクする方へ」と大きな舵を切って64年ぶりの牝馬のダービー制覇につなげた人だけが持っている、卓越した突破力がなければ実現していなかった。
福永のヨークシャーオークス構想は、結局は角居調教師に相談する機会もないままシーザリオ自身の故障引退で幻と消えたが、もし無事だったら角居師はその提案を喜んで受け入れてくれたに違いない。もっとすごいことが起きていたかもしれなかったのだ。
頻繁に角居厩舎に通うようになったことで、当時は同厩舎で飼料のアドバイザーをされていた小野雄次さんとの縁ができたのも福永にとって大きな収穫になった。動作解析の専門家でもあった小野さんの理論に興味を持ち、思い切りよく専属契約を結んで騎乗フォームを一から組み立て直したのが騎手人生の転機となった大きな決断だった。それが、岡部幸雄と並ぶ歴代2位の12年連続13回目の100勝以上という結果となって、いま大きな花を咲かせているのは周知の事実だ。