福永「まさに運命の名牝ですね」

「私を変えた“運命の女”」というタイトルにはじめは懐疑的だった福永だが「シーザリオとの出会いがなければ、小野さんとの出会いもなかったかもしれないわけで、そう考えるとまさに運命の名牝ですね」と、天上に視線を漂わせるように、そう話した。

　たった6戦（5勝。桜花賞2着が唯一の敗戦）で早々に現役を引退してしまったシーザリオだが、繁殖牝馬としても大成功を収めた。産駒の中からエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアの3頭が人気種牡馬となり、現役の3歳馬ルペルカーリアにもその可能性は残されている。

「シーザリオの優れたところをザックリ言うと、馬体のバランスと精神面の落ち着きということになるのでしょう。抜群の心肺機能や柔らかい筋肉、一流の牡馬のような乗り心地の良さなど、細かいところを言えばキリがないぐらい、長所はたくさんありましたね。そこはやっぱり、角居先生が『世界に通用する』と見込んだ馬なんです。ハリウッドパークの3コーナーから先頭に立って、このままちぎって勝てる！　と確信できたあの凄い手応えは、いつまでも忘れないでしょうね」

　福永が「ワールドクラスのパワーホース」と、手の内に入れるのに苦労していたのがエピファネイア（'10年生まれ、父シンボリクリスエス）だった。ダービー惜敗で大いに失望し、菊花賞制覇で自信を取り戻したものの、スミヨンに乗り替わられたジャパンカップで圧勝されてと、これほど福永の騎手としてのプライドを揺さぶった馬はほかにいなかったろう。

「シーザリオとは異質の、似たところを見つけにくい名馬でしたね。リオンディーズも、サートゥルナーリアも、シーザリオとは似ていないんです。でも、子供たち同士はみんな似ている（苦笑）。血の奥深さを感じずにはいられません」

　7頭の牡馬と5頭の牝馬を産み落としたシーザリオは、今年2月に子宮周囲の動脈断裂による出血性ショックのため、繋養先のノーザンファームで亡くなった。妊娠中の19歳だった。