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セ・リーグの“9人野球”を守ることに意味はある…プロで7本のホームランを打った桑田真澄が語っていたこと
posted2022/05/17 06:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
KYODO
先発の大谷翔平のユニフォームが土で汚れていた。1回表、大谷が1番バッターとして出塁したからだ。打線の上位に入ることがないピッチャーが、土のついたユニフォームで1回のマウンドに上がる。二刀流だからこその光景だった。
大谷がメジャーのルールを次々と変えてきた。その中にナ・リーグのDH制採用がある。それに追随する形でNPBのセ・リーグにもDH制を、という声が根強く残っている。1973年にア・リーグがDH制となって以降、ワールドシリーズの勝敗はほぼ互角(アが25度、ナが23度)。
日本ではここ最近の日本シリーズ、交流戦でパがセを圧倒してきたことから、その差はDH制から生じているという声があったのだが、昨年は交流戦でセが勝ち越し、スワローズが日本一となった。DH制の有無が必ずしも勝ち負けに直結するものではないことが改めて示された。
日本には子どもの野球や高校野球、東京六大学野球、関西学生野球などDH制を採用していない9人野球が存在する。レベルの高いプロとしてDH制のないセ・リーグの野球を守ることに意味はあるはずだ。
プロで7本塁打を打った桑田真澄が語っていたこと
実際、今年はセの野球をピッチャーのバッティングが盛り上げている。カープの森下暢仁が3安打を打ち、ドラゴンズの勝野昌慶は逆転ホームランを、高橋宏斗が逆転タイムリーを打って試合を決めたこともあった。高校時代、甲子園で史上2位タイの6本、プロでも7本のホームランを打った桑田真澄はこう言っている。
「打つときにはボールをバットの芯で捕るイメージを持てばいい。キャッチボールではグラブの芯でボールを捕る。バッティングでもバットの芯でボールを捕るイメージを持つ。そうすればボールを点でなく線で捉えられるようになるはずなんだ」
4月19日、桑田にバットの軌道について指導を受けたジャイアンツの戸郷翔征がプロ初の長打を放ち、原辰徳監督に「ピッチングもバッティングも攻撃的だった」と讃えられた。ピッチャーのバッティングはプロとして提供できない代物ではない。
MLBがそうしたからといってNPBが追随する必要はないのだ。9人野球の最高峰として、DH制のない野球を世界へ示すことに意味はある。セのピッチャーたちは今、バットを持って腕を撫している。