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元宝塚トップスター望海風斗が証言する“羽生結弦27歳の美しさ”「マニアックですが、私は羽生選手の“踏み込み”が大好きで(笑)」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2022/04/22 17:10
元宝塚トップスターの望海風斗さんにとって、羽生選手の好きなプログラム・ベスト3に入るという『オペラ座の怪人』
望海と羽生はともにガストン・ルルーの小説を基にした作品を演じているのだ。望海は宝塚時代の2018年にミュージカル『ファントム』で舞台に立ち、羽生はソチ五輪後の2014-2015シーズンに、フリーで『オペラ座の怪人』で使用された楽曲を演じている。
この曲を選んだ2014年当時、「一度は演じてみたかった」と羽生が話していた『オペラ座の怪人』は、北京五輪のエキシビションに向けた公式練習で披露したことが記憶に新しい。2014年からシングル競技でもボーカル入りの曲が解禁され、ファントムのつぶやくような歌声からスタートする『オペラ座の怪人』で、20歳の羽生は怪人の狂気と孤独を表現し、美しくも切ない表情で観客を魅了した。
『オペラ座の怪人』が、羽生の好きなプログラムのベスト3に入るという望海も、当時、内側からあふれ出す感情を表現した彼の演技を、息をのんで見守っていたという。ときには、羽生とファントムの姿が重なることもあった。
「当時、このプログラムをよく見ていて、音楽を愛しているからこそ、音楽をどのように表現するかをすごく考えていらっしゃっているなと感じました。私が演じた『ファントム』とは少しストーリーが違いますが、“怪人”と言われている悲しさ、また、それゆえの強さも感じました。それに、ただ単に『オペラ座の怪人』を演じているというだけではなく、作品を通して私たち観客も彼の世界に引き込まれていくんです。“怪人とはこういう人だったのかな”と想像させてくれるような1本の物語を、フリーの4分半(当時)で見せてもらったような気がします」
『人間誰しも秘密を持っている…』
一方、宝塚で主人公の生い立ちまでを深く描いた『ファントム』で主人公を演じた望海は、どのように役作りを行っていったのか。
「土台をきっちり作らないと、台本をなぞっているだけではエリック(ファントム)の悲しみ、なぜそこまでしてクリスティーヌを求めるのかを表現できません。台本に描かれていない部分を、どんどん肉付けして、血を通わせていく。そういったことを考えながらお稽古に取り組んでいました。
『オペラ座の怪人』はクリスティーヌとファントムの関係性が強い作品ですが、『ファントム』は親子の関係性が強い作品です。『ファントム』の作詞・作曲を手掛けたモーリー・イェストンさんの音楽はとても母性に溢れていて、母性と父性、クリスティーヌと言う人間の温かみを感じられるのが『ファントム』の良さでした。だからこそ、私も音楽を大切に、素直に感じることが大事だと考えていました。
実は当時、イェストンさんがお稽古に来てくださったんですが、『人間誰しも秘密を持っている』、『その秘密をそれぞれの役には見せないけれど、お客さんには見せる。それが役者の仕事でもある』とおっしゃっていて。それを大事にして舞台で演じていました」
「羽生選手はただ自分が楽しむだけではなく…」
誰もが知る名作となれば、演じるプレッシャーはつきものだ。一方で、だからこそのやりがいもある。そうしたものすべてを含め、楽しさを感じながら望海は今も舞台で演じている。