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「無理に競うことはしないし、人と比較して自分が一番という価値観はもういい」“華麗すぎるキャリア”を持つ山口真由がランで得た新たな気付き
text by
吉川明子Akiko Yoshikawa
photograph byMiki Fukano
posted2022/05/12 17:00
現在は、信州大学特任教授としてメディアで活躍している山口真由さん。ランニングを始めた理由とは?
走る時の持ち物は家の鍵とクレジットカードだけ。水も持っていかないし、音楽も聴きません。ウェアもぜんぜんこだわりがなくて、ユニクロのTシャツ。シューズも家にあるものを履いていたのですが、Number Doのランニング取材を受けることになったので、いい機会だと思って買いに行きました。
店員さんに、「どれくらい走りますか?」「タイムを出したいですか?」「走りやすいほうがいいですか?」といろいろ聞かれて、タイムは関係なくて走りやすいものがいいと伝えたら、「タイムを意識しないなら軽くなくてもいいですから、なるべく底が厚いものの方が走りやすいですよ」と言われました。何足か試し履きして、「HOKA ONE ONE」のシューズにしました。色はオレンジです。箱根駅伝とかを見ていると、鮮やかなシューズで、一歩一歩が際立って見えますよね。だから、シューズは絶対明るい方がいいと思ってたんです。家に帰って妹にシューズを見せたら、「いいじゃん。それさ、あんたにしては信じられないくらい高いの買ったでしょ?」って言われて。確かにそうでした(笑)。
皇居ランナーを見て「意識高っか!」って思ってたんです
私は内向的な人間なので、人に会う時間と自分ひとりの時間をちゃんと調節しなきゃいけないのに、自分ひとりの時間が取れなくなっていったり、人に合わせなきゃいけなくなったりすると、「わー」ってパニックになるタイプ。でも、走っている時は自分と向き合えるのがいいですね。走っている時の頭の中は白紙の時もあれば、とめどなく何かを考えている時もあって、それらの状態を行き来している感じがすごく好きですね。あとは目の前の走路を見て、「こっち走ろうかな」などと、考えるでもなく考えているというか。
以前、石原良純さんに、「きれいに抜ける時は抜きなさい。同じくらいで競るんだったら抜かしちゃいけない。相手も消耗するし、自分も消耗するから」と教えてもらったことがあって、それは意識しています。抜かせる時は抜かしますが、私はきれいに抜かれる方じゃなくて、他のランナーに抜かれたら少しムカつきます。でも最近、抜かされることが怖いんじゃなくて、後ろから近づいてくる足音と抜かれるかもしれないという状態がすごく嫌だということに気づきました。振り返って確認するのもプライドが許さない。
でも、無理に競うことはしないし、人と比較して自分が一番という価値観はもういい、と思うようになりました。「もっと早く、もっと遠く」じゃなくて、自分で自分を信じられる、揺るぎない確信を大事にしたい。毎日変わらず走り続けるものがあるとそれが自分の基準になり、それらが蓄積されると、周囲に惑わされず、自分が信頼に値する人間だと思えるようになるんです。
前に皇居ランナーを見て「意識高っか!」って思ってたんですけど、自分が走り始めるようになってそうじゃないなと思ったし、みんなそれぞれの必然性があって走っていたんだなということが実感できました。
撮影=深野未季
山口真由(やまぐちまゆ)
1983年、北海道生まれ。東京大学在学中に司法試験合格。卒業後、財務省と法律事務所勤務を経てハーバード大学ロースクール。ニューヨーク州弁護士。講演や執筆などで活躍。
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