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フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
トゥルソワ17歳「2度と氷の上に立たない!」 なぜロシアの最強エテリチームに亀裂が入った? 選手が“移籍→復帰”を繰り返した歴史
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byJIJI PRESS
posted2022/02/18 17:05
2月17日のフィギュア女子の表彰式直前、号泣しながらエテリコーチの腕を振りほどくトゥルソワ
亀裂を生んだ「プルシェンコのアカデミーへの移籍」
この「3人娘」に亀裂が見られたのは、トゥルソワが2020年春にプルシェンコのスケーティングアカデミーに移った時だった。ジュニア時代は女子の4回転の記録を作り、ずっとトップだったトゥルソワだが、シニアに上がってからはジャンプミスも目立つようになり、コストルナヤ、シェルバコワに追い越された。GPファイナル、欧州選手権と3位に終わった焦りがあったのだろう。だが思うように成績が伸びなかった1年後の2021年5月には、あっさりと再びエテリチームに戻った。
コストルナヤも2020年7月、プルシェンコのアカデミーに移籍した。だが負傷などに苛まれてトレーニングがうまく進まなかったこともあったためか、翌年3月にはトゥトベリーゼに再び指導を嘆願。しばらくテスト期間を置いたのち、再び受け入れられている。「楽しく練習して試合で泣くより、その逆の方が良い」と、ロシアの媒体にもらしている。だが結局コストルナヤは、北京の代表を逃した。
こうしたドタバタ劇を横から見ていたシェルバコワは、「正直言えばショックを受けています。でも私は自分のトレーニングに集中しています」とコメントした。ショックを受けたというのは、いったん去ったライバルたちが何事もなかったかのように戻ってきたことを指しているのだろう。
ワリエワの金メダルの前に立ちはだかったもの
こうしたエテリチームは、様々な批判を受けながらも支持されてきた。勝ちたい生徒たちは、結局彼女の元に戻ってきたことからも、それは明白だ。
今シーズン、ジュニアから上がってきた15歳のカミラ・ワリエワは、能力も成績もまた別次元の選手だった。北京で新女王になるのはワリエワ、と世界中が予想していた。筆者も五輪予想記事で、ワリエワが金メダルを逃すとすれば、彼女の前に立ちはだかるのはおそらく人間ではなく、健康上の問題、と書いた。
もちろんヴィンセント・ジョウ(アメリカ男子)の身に起きてしまったように、誰もがさらされているコロナ陽性になる危険性についての懸念だったが、ドーピング陽性という結果は、まさに青天の霹靂としか言いようがない。
ドーピング事件の焦点は、ロシアの“いわくつきの医師”
これほどの騒ぎになったワリエワのドーピング事件は、今後もIOCとISUにとって大きな頭痛の種になることは間違いない。
WADAがどこまで調査をして、どのような結論を出すのか。特に焦点となっているのは、ロシアのチームドクター、フィリップ・シュベツキー医師である。2008年夏季北京オリンピックで、ロシアボート連盟の医師を務めていた彼は、アンチドーピング規則違反で処分を受けたいわくつきの人物。NHK杯でウサチョワが負傷した際に、抱きかかえて運んだ長身の男性といえば覚えている人もいるだろう。北京でもフィギュアスケーターたちに同行しているが、特に彼に対して今後厳しい捜査が行われることは間違いない。
ロシアはすでにソチオリンピックでの組織的ドーピング違反容疑で、IOCから国家としての参加を禁じられている。だが実質的に禁じられたのは国旗と国歌の使用だけで、こうしてロシアの選手たちは競技参加を続けてきた。
大国ロシアに対してはIOCもあまり厳しい姿勢を示すことはできず、ISUも現在副会長でフィギュアスケート理事である長老、アレクサンドル・ルケルニクはロシア出身だけに、この一件をどのように納めるのか注目される。